日本皮膚科学会キャリア支援

ラパマイシンゲル 誕生物語

医学者なら研究だけでもいいかもしれないけども、
臨床医なら患者さんに役に立つことをしないと


金田眞理

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多田弥生 鷲尾健
対談金田眞理 × 多田弥生 鷲尾健
>鷲尾健

鷲尾健

2006 年 4 月:西神戸医療センター臨床研修医
2008 年 4 月:西神戸医療センター皮膚科専攻医
2015 年 3 月:神戸大学大学院医学研究科修了、医学博士
2015 年 4 月:神戸大学病院皮膚科医員
2016 年 4 月:西神戸医療センター皮膚科副医長
2018 年 4 月:神戸大学大学院 医学研究科・内科系講座皮膚科学分野 助教
2019 年 7 月:西神戸医療センター皮膚科部長代行、現在に至る

治験に関わる若い 皮膚科医へのアドバイス

鷲尾: 医師主導試験をこれから目指すような若い先生に対して、ここに気を付けたほうがいいよというようなアドバイスはありますか?

金田: まずやっぱり、特許を押さえないと企業はついてきてくれないんじゃないかなと思います。その上で、早いうちから企業と組んで、いろいろ相談してやっていくというのができれば一番いいんではないかなと思いますね。

鷲尾: ということは、内服薬がある程度効果があるかもしれないという段階で、外用剤でももう企業と一緒に組めたら多分楽だったっていう印象ですかね。

金田: そうですね、でもなかなか組んでくれるところないですよね。
リスクが大きいと製薬会社が嫌いますね。たくさん試験をやっても市場まで持っていけるものは非常に少ないので。たいてい失敗するのは最初の段階のところで、III相試験ぐらいまでいけば結構大丈夫なので、基礎的なところのデータまでは、自分たちである程度出して、企業のほうにアピールするという のが良いと思います。あるいは今は自分で会社を 作ってしまうというのも1つなのかなと。

鷲尾: 先生に今後の展望でお聞かせ頂きたいのですが、先生が治験をされたときはまだ医師主導で第I相、第II相をなんとかしてやってこられたということだと思うんですけども、今後同じようなことを私たち若輩者がちょっと考えたときに、先生がされ た第I相、第II相をやるとしたら特定臨床研究になってしまう。そうすると、先に特許を押さえて企業と組んでおいて、そのお金が出た状態じゃないとそういうことができないかなと思うんですけども、 それは何かいいアイデアとかありますかね。

金田: 我々のときはさっきも言ったように、臨床試験が非常にやりやすかったので、まず臨床試験である程度、予想や手応えを見て、ついでI、II相の医師主導治験を考えるということができたんです。

鷲尾: ある程度データを捕まえて、その上で特許を申請されたということになりますかね。

金田: どうやって最初の試験を遂行されたのかとよく聞かれるんです。いまは、特定臨床研究をしようと思うと、ほぼ治験と同じだけの工程が必要になるんですね。費用もそれだけかかるということです。 それに、監査も必要になってくるしで、結構しんどいんですね。しかも特定臨床研究にすると、保険がわけられないので、全て自費診療になってしまいます。試験の間にもし、他の疾患にかかられたら、その費用も全部こちらが、研究費用で払わないといけないということになります。非常に長い試験になると、遂行が非常に難しいです。だから、もし私が次にもう1回同じことをやるのであれば最初から治験にしようと思います。探索的なII相試験です。特定臨床研究は非常にやりにくくなってしまいました。

鷲尾: 最初から治験にするときに、もちろん特許を持っておかないと、なかなかできませんね。

金田: 企業がなかなか付いてくれないのと、AMEDにグラントを申請するときに、特許がどうなっているかとか、導出企業は決まっていますかという事を聞かれるので、申請していませんということでは、マイナス点になるんだろうなと思います。

鷲尾: なかなか第I相とか第II相とかの手ごたえというのがなくて、特許申請を出すというのは難しいですね。

金田: 動物試験のデータは出せますよね。ものによってはそれだけでも出せる場合があります。ただ特許の専門家によると、人のデータが入っていると非常に強いんですと、言われます。だから、たまたま他のことで塗ってて、その疾患にも効いたケースだとか、本当に少数だけ短期間で、臨床試験みたいなので大丈夫だったらそういうのを使われると良いと思います。

鷲尾: 特許を出されるときに先に論文で発表してしまうと、特許として認めらないという問題もありますね。他にも、例えば、ラパマイシン(シロリムス) の元々の原薬を作った人の特許とか、いろいろ関連特許とか問題が存在すると思うんですけど、そのあたりで気を付けておくべきこととかありますか?

金田: そうですね。エベロリムスとシロリムスがその当時からあったんですけど、シロリムスが全部特許切れだったんです。 それで、シロリムスを選んだんです。エベロリムスは特許がかかっていたんです。多分、ファイザーのほうも全部特許切れになっているので比較的大らかだったのかなと思うんですけれども。

多田: 動物データも全部内服のもので使わせてもらったんですよね。

鷲尾: 外用に特化したGLPレベルの試験は我々でしましたが、それ以外の内服の試験はファイザー社のデータを使わせていただいてました。ただ、あくまでも、III相の医師主導治験だけですよということで契約を交わしていました。だから実際にIII相試 験が終わって、ノーベルファーマが申請するときには、これはI,II相の医師主導治験だけに使用が許可されたものなので、それはちゃんと新しくデータを出して下さいねという話をしました。

ラパマイシンゲル販売後の展望

多田: III相の試験が終わって、いま世の中に出てきて患者さんの評判とかはどうですか?

金田: やはり、元々患者さんがやってほしいと、 言っていただけあって、すごく喜んでくれますし、 先生これよかったですわ、とか言ってくれてます。 患者さんのなかには「ひょっとしてわしが言うたからかな」とか言ってる人もおられますし(笑)
私も「そうや」とか言ってるんですけれど(笑)。

多田: それは嬉しいですよね、患者さんは。

金田: すごく喜んでくれます。
ただ、すごくきれいになってきたから、いっぺん止めてみようかって言ってもなかなか止めてくれないんですね。内服でもそうですけれども、止めたらまた出るでしょうというのがあるので。

多田: 基本的には、難病申請されて助成金の範囲内で外用するっていう方がほとんどですよね。結構お高いお薬ですよね。

金田: そうですね。難病申請を取っていなかったら、そこそこの値段がすると思います。ただ、取っていなくても、乳児医療とか市町村によっては費用がかからないかもしくは少額で済むんですっていう ような方もおられます。中には少量で済む人だったらお化粧品だと思えば安いですと言われる女性の方もいらっしゃいます。

多田: 具体的に外用プロトコルとすれば、塗らなくなるとやっぱり出てきちゃうということで、どうしても長期戦になってしまいますよね。おそらく試行錯誤されているかなと思うんですけど、こういう塗り方がいいのかなという塗り方ってありますで しょうか?

金田: なにがいいかっていうのはまだ分からないですが、私は一応、肉眼的に全くわからなくなると、 いったん止めてみたらって言っています。止めてみて、そのかわりよく経過を観察して、また出てきだしたら、ピンポイントで2, 3日外用を再開すれば、それで効果が出るという人も結構いらっしゃるので、 そういうふうには言っているんです。あとは、子どもさんなんかだと、結構早く効く子は、本来は1日2回なんですけれども、最初から1回でもいいよとかその患者さんによって変えています。ただ、人によっては、2回を1回にしただけで、効果が悪くなると仰る方もあるので、結構個人差があるみたいなんですけれど。

鷲尾: 先生にとってはわが子というか、非常にかわいい、ゲルという思いがあると思うんですけれども、またそのお子様が非常に成長されてっていうなかで、これからの展望ですとか、そのあたりをもう少し、お聞かせ下さい。

金田: こういうお薬というのは、基剤を変えるだけで、利かしたいところへ利かすことができるんです。例えば、ほとんど血中に移行するものもあれば、 血中いかずに皮膚に非常によく留まるものもあります。だから新しいものとしては、基剤を変えることによって、もっとターゲット化することですね。注射だったら痛いけれど、もし、塗って全身の好きなところにお薬をいかせられるんだったらいいなぁと思います。ただ、いかんせん値段が高いので、かなり広い範囲にお薬を使おうとすると、なかなか使えないです。皮膚にたくさん塗れて、血中に入らないというスタンスでいけば、非常に安全性が高くていろんな皮膚病変に使えるだろうと思ってます。ただ、 ジェル剤なので、刺激が強いので、もう少し刺激の少ないかたちのものができればいいかなというふうに思っているんですけれども。

鷲尾: 最初の質問に戻ってしまいますが、僕らからするとハードルが高くて、いろんな壁があったと思うですけれども、壁にぶち当たったときに、やめちゃおうかなって思う瞬間が多々あるかと思います。それを続けられた理由をお聞かせください。

金田: やめたいと思うことはいくらでもあるので すが、いろんな方がサポートしてくれるのを見ていたら、今さらやめるって言えないよね?というみたいな感じでした。

鷲尾: やっぱり自分だけじゃなくて、その患者さんや周りの協力とかあって。

金田: そうですね、やっぱり周りの人がいっぱいいろいろ協力してくれていて。

鷲尾: マラソンみたいなもので、走っていて沿道から声援が聞こえてくると頑張れちゃうような。

金田: そうです、本当に。必死でやってたらなんとかなってそれでいけると。

多田: 確かに、それもモチベーションになりますね。今日は長時間本当にありがとうございました。

金田: ありがとうございました。

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