日本皮膚科学会キャリア支援

日々の戦略的思考

2日目
戦略的思考のブラッシュアップ

2日目セミナープログラム 一度は一緒に学んだメンバーということもあり、リラックスした雰囲気のもとスタートしたセミナー2 日目。この日は、実際に参加者が 抱える問題点から一つテーマを選び、戦略的思考を展開していくワークが行われました。
まずは、前回で学んだ戦略的思考モデルを振り返り、各ステップの理解を深めるためのグループワークを実施。これは、一つのステップに対し、他のタイトルや自分なりの定義をつけて、必要なスキル、実行するときに問題となるのは何かなどを考えるというもの。言わば、戦略的思考のウォーミングアップです。各自がさまざまな見解を付箋に書き出していきました。
ステップ2を実行するうえの問題点では、「伝統・固定概念」があげられ、「この書類を使 わないといけない」「代々、何曜日が勉強会」など、院内の伝統として定着していることについ て、本当にそうでなければならないかという問題提起もありました。

その後はグループ内で、どのテーマで戦略的思考を展開していくかを議論。ここでは、各自が抱えている問題点を皆で共有し、意見を出し合うことによって、自分の思い込みや固定概念を捉え直し、心を整えていきます。松井講師は、心理学者エリスによる認知モデル『ABC理論』を紹介。さらに、上手くいかないときの代表的な認知パターンとして、1他責、2正当化、3あきらめ、4不安があると説き、自身の思い込みを自覚するためのヒントを示しました。 グループワーク『戦略的思考の展開』
「思い込みの中には自分を支えてきた信念もあり、なくなるものではありません。一方で、そうした思いを持ち続けていると、同じような問題が繰り返されてしまいます。戦略的思考に入るときには、その思い込みをいったん手放して、違うところにチャレンジして考えようという意識が重要です」

戦略的思考の展開

皆が選んだ問題点は「後進の育成が進まない」。ステップ2から4のグループワークが展開されていきました。ワークの開始前に、松井講師はステップ2の思考を広げるためにはコーチング的な立場で考えることが必要だと話し、頭の中で問いを立てることで状況の捉え方が変わると説明しました。 ステップ3では、両講師から院内のシステムから得られる情報の活用や一般企業の成功例など、情報の可能性を広げていくためのヒントが提示され、議論を導いていきました。また、情報収集のコツやヒアリングに役立つインタビューのガイドラインなど、さまざまなXッセンスが紹介されました。

参加者の皆さん

井川哲子先生

井川哲子先生

旭川医科大学 皮膚科学講座

戦略的だと感じさせる人:
クラシック界で大成している指揮者
入福令子先生

入福令子先生

広島大学病院 皮膚科

戦略的だと感じさせる人:
難しい患者さんでも対応が上手な医師
徳山道生先生

徳山道生先生

東海大学医学部附属 病院皮膚科

戦略的だと感じさせる人:
皮膚科でトップを走っている先生方
中島沙恵子先生

中島沙恵子先生

京都大学医学部附属 病院皮膚科

戦略的だと感じさせる本:
書籍「戦略的子育て」
八十島 緑先生

八十島 緑先生

帝京大学医学部附属 病院皮膚科

戦略的だと感じさせる人:
秋元康
福地健祐先生

福地健祐先生

中東遠総合医療 センター皮膚科

戦略的だと感じさせる人:
計画に基づいて確実に実行している人
丸山彩乃先生

丸山彩乃先生

京都府立医科大学附属病院

戦略的だと感じさせる人:
米津玄師
グループワーク

参加者の声

  • 戦略思考というとシャープなイメージ。でも、セミナーで皆さんとワークしていく中で、コミュニケーションをとりチームの力を合わせていくことが重要だと思いました。
  • 一人で考えていると思い込みになってしまう。講師の方から意見 を聞くと、視点が変わってくると実感しました。異業種からの意見や情報も捉え直したいと思います。
  • 自分がいっぱいいっぱいだと、若手も「こんなところにいたくない」と思ってしまう。自分の考えをいったん書き出して心を整えた状態にすることが、若手の教育にとっても大切だと思いました。
  • セミナーでは、皆の力を借りることができました。今度は日々の中で、どういうふうに学んだことを自分が使えるのかを考えてみようと思いました。
グループワーク グループワークを終え、全員に共通していた 感想は、「他の参加者や講師の意見が参考になった」「いったん立ち止まり、自分の考えを書き出すことの重要性を実感した」という声。 松井講師は、「他者の力を借りられたのは、いったん自分の思い込みは脇においてスタートしたため、いろいろな人の知恵が入りやすくなっているのだと思います」と心を整えることの重要性を再度強調しました。 また松井講師は自分と向き合うことの基本は書くことだと説明。そして、「皆さんはもともとカルテや論文などの記述をとおして、考えたことを書いて表現するという力を持っていると思います。自分を振り返り記述することは、戦略的思考の基盤を整えることにつながります。ぜひ、活用してみてください」とエールを送り、セミナーが終了しました。

誌上セミナーに寄せて

未来の医療づくりを支える「戦略的思考」

講師松井 亜希子
株式会社トッパンマインドウェルネス 取締役

近年、VUCA 時代といわれるように、きわめて予測困難な社会経済環境に直面しています。私が普段接するビジネスリーダーも、様々な環境変化への適応を求められており、昨年と同じ仕事では成果を得られない状況に向き合い日々試行錯誤しています。そこで大切なのは、自分が望むことや自分の力を理解し、周囲の力をうまく使いながら物事を前に進めること。
そう考え、セミナーなどを通してサポートに努めています。今回、皆さんと学んだ「戦略的思考」は、そのマインドと実践力を鍛えるものです。 昨今の医療現場では、医師の確かな専門性に加え、患者側のニーズの変化や、病院経営などの観点もふまえて、信頼感、安心感のある診療の仕組みづくりが求められていると思います。そのため周囲とうまく連携して、前例ベースではなく、 将来をつくる選択と実践を支えるスキルとして「戦略的思考」は役に立つのではないかと考えています。 実は、この「戦略的思考」は、起こっている出来事に対し「これはどういう意味を持つか」と"汎化"する思考力ともいえます。参加者の皆様はこの力がとても優れていると感じました。特に、仲間の経験談や考えを聴き、そこから重要なポイントをつかむ力は抜群でした。今回学んだ「戦略的思考」モデルをベースに、周囲関係者との対話を楽しみ、より良い医療の未来をつくる思考と実践を重ねていっていただければと思います。
※ Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をつなぎ合わせた造語

戦略的思考の"その先"を考える

セミナー監修蓮沼 直子
広島大学医学部附属医学教育センター 教授

昨年のファシリテーションスキルに引き続き、今年はリーダー個人のスキルアップを目指すということで、戦略的思考 を学びました。
戦略的思考! なんだかこの思考方法を身につけると成果が上がりそうな響きですね。この戦略的思考とは視点の切り替え、課題の捉え直しともいえるでしょう。新たな視点、切り口で考えることで、それまで気がつかなかった方法、メンバー、リソースなどを活用し、効率的な目標達成ができるのではないでしょうか。
また、多くの視点を持つためには興味や好奇心をもって様々な事柄や人物に触れる、アクティブに活動することも必要です。
私自身もコミュニケーション分野を中心に、多くのスキルを学んできました。その中で感じるのは、「なぜそのスキル を学ぶのか、そのスキルを学んでどうしたいのか」といった具体的なアウトプットの場が必要だということです。できれば学ぶ前に、また学んでいるときには、「ここで活かしたい」という場が浮かぶとよいでしょう。
スキルを学んだだけではまだ借り物ですので、実践で活用し、工夫しながら自分のものとして身につけていただければ と思います。

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