日本皮膚科学会キャリア支援

ロールプレイング

ここからは、3名のグループで1on1にトライ!
「1on1では、自分の色メガネを外し、オープンになることが前提です。主導権は相手にあり、相手の話したいことを聞いて相手に悩みがあれば答えを見出すことを助けます」と1on1の狙いを話す松井講師。ロールプレイングでは、「聴き手」「相談者」「観察者」役をそれぞれ1回ずつ担当します。1回7分の面談の中で、聴き手は1相手に集中して話を聴く(傾聴) 2相手の良い点を認める・褒める(承認) 3相手の話を深掘りする(深掘)の3つのスキルを実践。具体的には、「へぇー」「なるほど」 「うんうん」 などの相づちや、「△△ということですね」など相手の言葉を言い換えながら話を引き出し、「具体的にどんなことがありましたか?」「どうしてそう思ったのですか?」などと尋ねて話を掘り下げ、さらに「うまく対応しましたね」「頑張っていますね」と、相手を褒めたり認めたりしながら、相手が自分で考えて解決策を見つけられるようサポートしていきます。また、観察者は下記のポイントを踏まえてロールプレイングを評価(図5)。7分経ったところで振り返りを行い、観察者の評価を共有し、相談者として悩みを聞いてもらった感想や、聴き手として承認のスキルを実践してみた感想を話し合い ます。
図5

●グループA

「積極性に欠ける1年目の医師にどう対応すれば良いか」という相談に対して、聴き手は「難しい問題ですね」「注意したことがマイナスになるかもしれないと思うと、指導をためらってしまいますね」などと、共感や相手を認める言葉をかけながら話を聞いていきました。さらに「積極性に欠けるとは、具体的にはどのような状況ですか」「先生はどんな指導をされたのですか」「実際の診療には何か問題はありましたか」と問いかけて話を深掘。相談者は「処置のときに皆に言われないと動かない」「以前は指導していましたが、今思うと具体的な指示はしていなかったかもしれません」「問題はないというか、2年目の先生がカバーしてくれている状態。このままではよくないと思ってはいるのですが……」などと、聴き手の質問に答えるうちに、自分が何に困っているのか、問題点は何なのか、改めて気づいた様子でした。 振り返りでは、観察者から「相づちや相手に共感する言葉が多く、聴き手として相談者を助けようとする姿勢が伝わってきました」とのコメントがありました。

「聴き手」「相談者」「観察者」役になってロールプレイングに取り組む先生方。

●グループB

院内会議が早朝など勤務時間外に設定されるため、自分の時間が持てない、具体的には家事の時間が取れないことに悩んでいるという相談者。聴き手が「会議の時間について相談できる雰囲気ではないのでしょうか?」と尋ねると、「話はできますが、他科から手術があるから8時前でないと会議はできないと言われました」「ママさん医師は子どもの保育園の送り迎えがあるので、早朝や夕方以降の会議に出席できる人が限られています」という事情を打ち明けました。聴き手は「大変な環境ですね」と、まずは相談者の気持ちに寄り添う言葉をかけ、続いて「普段は先生が家事をされているんですか」と、話を促します。相談者が「家族はコロナ禍で在宅勤務中。家にはいてもずっと仕事をしているので、家事は頼みにくいです」と話すと、「私も家事をやっているので、先生の悩みにはとても共感できます。女性が 働くのは大変ですよね」と、大きくうなずいて共感を示していました。 面談後、聴き手は「相談者に共感しすぎてしまい、深掘ができなかった」と振り返りましたが、観察者は「言葉だけでなく表情からも共感の姿勢が伝わってきました。相談者が安心して話せる場づくりがうまくできていたと思います」と評価しました。

●グループC

相談者の悩みは看護師の人事異動についてです。
新たに外来に配属予定の看護師Aさんは、医師の指示に従わないなど問題のある人で「実は数年前にも皮膚科外来にいたのですが問題が多く、医師が指導しても改善されなかったので、当時の師長に相談して他科に異動してもらいました」と事情を説明。聴き手は「そうですか」「なるほど」などと相づちを打ちながら話を引き出します。
相談者が「正式に辞令が出たら師長宛ての抗議文を書いて渡すつもりですが、事を荒立てるのはどうかとも思っているんです」と話すと、聴き手は「そうですよね。同じ病院ですからAさんに会うこともありますしね」と共感を示しました。
さらに「他科からクレームのあったぶっきらぼうな受付スタッフが、言わば押し付けられる形で配属されたことがあった」と聴き手自身の経験を話し、「皮膚科ならクレームは出ないと思われたのかもしれませんね」と話を広げます。
その後も「それはお困りですね」「患者さんにも関わることですから心配ですね」などと相手を認めつつ、「Aさんは自分では仕事ができると思っているのですか」「Aさんに合った役割を見つけられるといいですね」 と、深掘していました。
振り返りでは、観察者が「聴き手が自分の経験を話したことで話が広がり、直接解決策を述べたわけではないのに、相談者が自分で解決するための道筋が示されたように感じました」と感想を述べました。

ロールプレイングを終えて

ロールプレイング終了後、全員がメインルームに戻って感想を共有します。「利害関係がなく、しかも医療者という自分の立場をわかっている聴き手に話を聞いてもらえて、気持ちがすっきりしました」「相づちや共感しながら話を聞いていただいて心が和み、一人じゃないんだという気持ちになりました」など、相談者としての感想が聞かれた一方で、「聴き手として共感はできても、深掘ができなかった」と話す先生も。松井講師は「深掘のポイントは、『本当のところ、この人は何が言いたいのだろう?』『この問題の背景には何があるのだろう』と、相手に興味や関心を持って聞くことです。まずはシンプルに『どうしてそう思ったのですか?』と相手の意見を聞いてみると、 深掘のきっかけになります」とアドバイス。ただし、「どうして?」「なぜ?」「具体的には?」と深掘ばかり続けると、相手は問い詰められているように感じてしまうので、「深掘質問の間に、共感や相手を褒める言葉を挟むと場が和み、関係性を温めてくれますよ」との提案がありました。

セミナーを振り返って

ロールプレイングの実践と講評を終え、いよいよセミナーは最後のセクションへ。本日の学びを基にこれまでのコミュニケーションを見直し、行動変容につなげるためのアクションプランを作成します。コミュニケーショ ンを見直す方法として、松井講師は「ランクとバイアスを自覚すること、相手の非言語メッセージを意識すること」を挙げます。また、相手からのフィードバックをもらう、 コーチングを受ける、研修を受けるといった方法も紹介しました。
「自分自身のコミュニケーションを見直すことで周囲の人と良好な関係が築かれ、同僚のコミュニケーションも改善されるかもしれません。それが職場全体にも良い影響を及ぼし、何でも発言できる組織風土の醸成も期待できると思います」 次に、組織や職場、チームのメンバーなど具体的な相手に対して、今後どんな取り組みをしていきたいかをアクションプランにまとめて、全てのプログラムが終了。受講者からは「ランク、バイアスなど専門的な用語を知ることができ、勉強になりました」「自分も色メガネをかけて相手と接していたと気づかされました。自分で決めつけずにコミュニケーションを取っていきたいです」「学んだスキルをロールプレイングの場で実践できたのが良かったです」などの感想が述べられ、それぞれに気づきや学びが得られた様子です。
また、「部長同士や、50代・60代など、役職や年代別で話し合える企画があれば、ぜひ参加したい」など、次につながる要望も飛び出しました。終了後に実施したアンケートでも、ほぼ全員の受講者が本セミナーの満足度を「十分 満足」または「満足」と回答。「医師間だけでなく、医師患者間など全ての場面で活用できるスキルだと感じた」「部下や他科とのコミュニケーションに活用していきたい」など、前向きなコメントも寄せられました。
松井講師は「こちらが良かれと思って指導したことも、 信頼関係がなければ相手に受け取ってもらえません。自分の色メガネを外して相手を見ることや、ロールプレイングで経験した傾聴・承認(共感)・深掘のスキルを入り口に双方向のコミュニケーションを引き出せるよう、ぜひ自分から行動を起こしてチャレンジしていただきたいと思います」とのエールでセミナーを締めくくりました。
参加者 松井講師は、「ランクはいつも同じではなく、シチュエーションによって高くなることも低くなることもあります」と話し、一般的に高いランクにいるときは自分のランクに気づかないものの、低いランクになると被害者意識を感じやすいこと、高いランクからは低いランクの違和感や疎外感は気づきにくいことなど、ランクの特徴をわかりやすく解説しました。そして、「低いランクにいるときの違和感や疎外感に敏感になると、相手への理解を深めることにつながります」として、低いランクになったときに抱いた違和感・疎外感を思い出し、その経験を共有 するグループワークを行いました。

誌上セミナーに寄せて

ミナー終了後、講師の松井先生、セミナー監修の 蓮沼先生からメッセージをいただきました。

相互に信頼し協力できる関係の構築へ

講師
松井 亜希子 株式会社トッパンマインドウェルネス 取締役

今年はインタラクティブコミュニケーションというテーマで、相互の関係性に焦点をあてて学ぶ時間となりました。
医師として日常さまざまな方とコミュニケーションをとっている参加者の皆さんが、同じ皮膚科医の仲間との対話を通じて、 自分の言動を深く振り返る機会になっていたと思います。
本文でもご紹介していますが、本セミナーではランクという考え方を学びました。医師という役割は、培われた専門性を基盤に、周囲に診断やアドバイスを提供するコミュニケーションが多いかもしれません。周囲にない知見を持つ分、相手に対して高いランクを持つ状態にあります。高いランクにいると、気づかず相手とのコミュニケーションにおいて主導権を握ってしまっていることがあります。低いランクにいる人はもしかしたら「私にこれ以上説明する気はないのかな」などと、少し不安な気持ちになっているかもしれません。そのことに無自覚なままでいると、相互理解が難しい状態になるのです。
チーム医療、医師のキャリア形成など、今回の参加者の皆さんは、周囲の力を引き出し、育て、協業を促す役割を担われていました。この役割を果たすには、例えば、診断やアドバイスなど高いランクにいたままのコミュニケーションでは難しいことをご理解いただいたと思います。今回学んだインタラクティブコミュニケーションを成立させるコミュ ニケーションスキルを活用し、相互に信頼し協力できる関係を構築することは、皆さんの役割を果たす推進力となるはずです。皆さんの更なる活躍を支えるものになっていることを願っています。

オンラインでのインタラクティブコミュニケーション

セミナ―監修
蓮沼 直子 広島大学医学部附属医学教育センター 教授

今年の誌上セミナーは、「周囲との信頼関係を築くインタラクティブコミュニケーション」として開催されました。
早くに定員が埋まり、中堅からベテランまで多様な参加者がオンラインで集いました。 ランクやバイアス、非言語メッセージなどの概念を学び、さらにグループワークや1on1という1対1の対話のロールプレイを通して、実践的な学びの場となりました。コミュニケーションは、頭でわかっていても実践するとなると難しいものです。今回 は他の参加者のロールプレイを観察者として客観的に見ることや、実際に自分が当事者としてロールプレイをして振り返りを行いました。コロナ禍で対面では行えず、オンラインで難しい部分もあったかと思いますが、積極的に取り組みました。
今回学んだスキルを活かすために、ぜひ日常的に意識しながらくり返し取り入れてみてください。回数を重ねることで、コミュニケーションスキルはどんどん自分のものになっていきます。また、コミュニケーションスキルを学ぶことは自分の引き出しが増えることです。指導の幅が広がると思います。
コミュニケーションを学ぶと仕事関係のみならず、家族など近い人間関係からも波及効果が感じられると思います。
まさにワークライフシナジー(相乗効果)ですね。
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