日本皮膚科学会キャリア支援

NewsLetter 2020 巻頭のことば

星の時間をつなげる

青山裕美

Release2020.7.20

芸術家の創造において成就されるものは、わずかな時間のなかでのみ実現する。人類にとっての宝が、一瞬のはかない時期に産み出され、至宝であると認識されるころには、作り手はいない。 そのようなすばらしいものが産まれる時間を人類の星の時間と名付けたのはシュテファンツヴァイクである。そのことが臨床皮膚科の編集後記に塩原哲夫氏により紹介され多くの人の知るところとなった。
星の時間は誰にでも訪れるが、その時間は極めて短い、だからその瞬間に仕事を成就させねばならないのだと記載されている。その頃始まったM&Mの終了後、大学を退職したひとりの女性医師が、あれが私の星の時間だったのですね。と懐古調に話すのを遠くに聞いた。おそらく、誰もが星の時間を持っている。ただ、それを人類の星の時間にできる人はとても少ない。
星の時間を形に残せない人のほうが多い。けれど、遊んでいたわけでもない。不真面目にしていたわけではない。
それに対して、幸運にも人類の星の時間に関わることができた人達に共通しているのは、標準を遙かに超えた努力を継続し、真剣さ、集中力、そして卓越した情熱があるように思う。そしてスピード感。そこに人が集まり世に残る仕事が成就されるのである。誰も語りはしないが、そこには、多くの犠牲があり、必ず負の面もあるのである。
病気の皮膚をみる。あ、これは、という瞬間がある。それを証明しなくてはならない。その瞬間を何とかして繫げていく地味な作業が―星の時間―なのである。
卓越した能力の持ち主でない限り、凡人には修業であるが、自然にのめり込むことができれば、あなたは選ばれた人である。
はかない光が消えてしまう前に、拾い集めて空に返す人に私はなりたい。小さな星座の物語を作るつもりだ。
他人の星をみるだけの人になるのか、自分の星を持つ人になるのか。
あなたの人生をかけて、あなたの星をぜひ一つ。
さあ、みんなで、大きな空を見上げよう。

•塩原哲夫「臨床皮膚科」あとがき 第60巻第3号 2006年(ニュースレターP103に転載)