日本皮膚科学会キャリア支援

古江増隆先生

古江増隆先生のコレ !

日本皮膚科学会 理事
九州大学皮膚科教授

ヒトの見方

ヒトの見方

養老盃司 著 ちくま文庫

私はほとんど本を読みません。正確に言えば、本は時々買いますが、だいたい10ページくらいで飽きてしまうのです。職務上、仕事の場では理性的な判断をとるように常に努めてはおりますが、元来の私は飽き性で生粋の「よこてんごろ」です。「よこてんごろ」とは鹿児島弁でへそ曲がりのことです。読 書というプライベートな時間では、この元来の性格が作用するようで、読み始めると、飽き性がすぐに現れ、こんなことあるわけない、まどろこしすぎるとなってしまうのです。
皮膚科医になった時、一生の職業になるのだからと奮起し、当時の「小皮膚科学・上野賢一著」(現在の「皮膚科学・大塚藤男著編」)を文字通り完読しました。飽き性の自分が完読できたことに心底感激しました。それ以来、私の執務机にはいつも「皮膚科学」が置いてあります。入局した新人には、入局後1年以内に何か一つの教科書を完読するように薦めています。告白めいたこの寄稿文を医局員に読まれてしまうと、すっかり威厳がなくなってしまうかもしれませんね。でもまあ、教科書を完読することは 良いことだと思いますのでやってみてください。
こんな私ですが、完読し数年するとまた読みたくなる本があります。それは、「ヒトの見方(ちくま文庫)」です。私は医学生時代に著者の養老孟司(ようろうたけし)先生から解剖学を教わりました。養老先生のものの見方は特別です。この本を読むたびに新たな視点が得られるような気がします。じっと何かを探求するという明確な目的意識はありながら、 それをいろいろな角度から直視したり横目で見たりします。養老先生の卓越した「よこてんごろ」感が、 凡人の私の「よこてんごろ」にも良い波動をもたらしてくれるのかもしれません。「よこてんごろ」の人にお薦めの一冊です。もちろん、「よこてんごろ」になりたい人にもお薦めです。