日本皮膚科学会キャリア支援

中部支部からの報告

M&M相談会

2020

皮膚科医のサブスペシャリティ

2020年10月10日(土) 開催分

2019年10月に開催されたキャリアデザイン講座では、若手の皮膚科医から「数年後に皮膚科専門医が取れるように努力する」との声が多く聞かれまし た。しかし、日本皮膚科学会認定皮膚科専門医を取得した後のキャリアについてはまだ具体案がないとの声が多く、現実には専門医取得後に医局や基 幹病院を退職する医師も多いように思われます。皮膚科専門医取得後もさらにキャリアを積んでいくには、各自の専門領域、すなわちサブスペシャリティを持って診療に当たる必要があると考えられます。 専門医を取得した女性医師が退職を選択するのは、 女性が働きづらい日本文化や、それに伴う社会制度や福祉の問題が大きいと考えられますが、サブスペシャリティがキャリア形成において軸足となり、勤務を継続していくことへのモチベーションになっているという意見があります。
今回我々中部支部ワーキンググループでは、女性医師のみならず全ての皮膚科医において、サブスペシャリティが専門医を取得した後の勤務の大きなモ チベーションになり得ると考え、本会を開催しました。前半に各ロールモデルとなる皮膚科医より講演を行い、後半をグループワークとしてZoomを用い たweb会議上でのワークショップを行いました。参加者は23名でした。
Withコロナの社会情勢の中、本企画は開催そのものの成立が危ぶまれましたが、webツールを駆使し皮膚科学会事務局や参加者の先生方のご協力を頂き運営することができました。本会に参加頂いた先生方がサブスペシャリティを持って、益々ご活躍されることを願ってやみません。我々キャリア支援委員会においても、このような社会情勢ではありますが、できる限りのキャリア支援を引き続き継続したい所存です。
講演 1

腫瘍・手術部門のキャリア形成

加藤裕史(名古屋市立大)

加藤委員の講義ではまず「皮膚科医としてどのようなキャリア形成を行うのが正解か?」という問いかけがありました。この問いは「どのように仕事したら幸せか?」という質問に読み替えることもできるため、幸せを仕事の中で追求するのはどのようにしたらよいかを考えたと話しました。マズローによれば、人間の欲求には「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求(所属と愛の欲求)」「承認欲求」「自己実現の欲求」の5段階があり、低次の欲求が満たされるごとにもう1つ上の欲求を持つようになるとされています。医師として仕事をしていれば、社会的欲求までは通常満たされるため、次の「承認欲求」「自己実現の欲求」を満たすことを考えた際に、加藤委員は手術を行って病気が治り喜んでもらえると承認欲求が満たされると考え、外科的な皮膚科医になることを目指した旨を紹介しました。
次に仕事を好きになるコツとして、やっていてそこまで嫌悪感がない仕事で小さな成功を積んでいくことが必要であると説明しました。そして皮膚腫瘍分野・ 皮膚外科分野の守備範囲についての紹介があり、少しずつできる領域を増やしていけるように努力していると述べました。最終的に皮膚外科医に必要なスキルとしては、手術をすべき疾患としてはいけない疾患を鑑別でき、手術適応を正確に見極めることが必要であると説明しました。 最後に順天堂大学医学部主任教授の天野篤先生の言葉である「一人の患者さんから得られる経験を最低でも5倍にしよう!」を紹介して講演を終了しました。
講演 2

アレルギー部門のキャリア形成

峠岡理沙(京都府立医大)

本講義では ①サブスペシャリティを持つメリット、②サブスペシャリティの見つけ方、③アレルギーのサブスペシャリティの勉強方法について講義・解説がありました。

①サブスペシャリティを持つメリット
専門医取得前後の時期は様々なライフイベントが存在し、一度仕事を辞めてしまうことも多いですが、全く仕事をしないと医学領域での前進が望めないため、少しずつでも前進する、すなわちやりがいを持ち仕事を続けることが重要です。仕事で得意分野があるとやりがいを持って働ける機会が増えるため、これがサブスペシャリティを持つメリットであるとの考えを述べました。

②サブスペシャリティの見つけ方
自分の興味がある分野が一番ですが、周囲の先輩医師のサブスペシャリティを参考にすると経験や知識が得やすいものです。京都府立医科大学ではアレルギーのサブスペシャリティを持つ上級医の存在があり、熱心な先輩の後ろ姿を追うことができること、症例が多く知識を得やすいことを紹介しました。

③アレルギーのサブスペシャリティの勉強方法
大学院で研究を行うことで、皮膚アレルギー疾患の病態や検査法の理解が進むことを説明し、臨床力につながることを示しました。さらに、アレルギー専門外来を担当することになったことがサブスペシャリティを伸ばす機会となったことを説明しました。また、自施設のアレルギー診療をさらにレベルアップするために、藤田医科大学や大阪はびきの医療センター皮膚科に見学に行き、自施設の体制を整えたことを紹介しました。
最後に、アレルギー分野ではどのような物質がどのような種類のアレルギーを引き起こすのか、知識と経験の蓄積が重要であることを説明して講義を終えました。

ワークショップ

講義を参考にして参加者は、何か1つの分野でこれからサブスペシャリティを究めるにはどのように行動すればよいのかを記す「究めるシート」(図1)を、それぞれ自身のパソコン上で作成しました。
究めるシートは4つのマス目がありますが、どこから埋めてもかまいません。例えば皮膚悪性腫瘍・手術診療を究めようと思えば皮膚悪性腫瘍学会に入会し、日本皮膚科学会より皮膚悪性腫瘍指導専門医に認定されることが目標となるでしょう。目標が決まればそれを達成できるように残りのマス目を埋めていきます。専門医を受験するには、条件として手術で術者を務め、様々な手術ができるようになる必要があります。このためには手術書を読み、ガイドラインに精通し、手術を見学したり動画を見たりして知識を得ることが必要です。稀な腫瘍を経験したら学会報告・論文発表を行うことも重要なステップですし、根治手術が難しい症例の治療法を経験し、その集積検討を行うことも役に立つでしょう(図1)。こうして「究めるシート」で具体的なイメージがつかめると、「未来年表」にそれをいつまでに実行するかを書き込みました(図2)。 極めるシート 極めるシート ワークショップにおいては原則的に参加者2人に対してワーキング委員が1名、ファシリテーター(メンター)となる皮膚科医が1名同じブレイクアウトルームに入室して、アドバイスを送りながら計画を策定するようにしました。
web開催ならではのメリットとして、参加者が、「究めるシート・未来年表」の実際の作成画面を共有しながら上級医からアドバイスが受けられることが挙げられました。時には和やかな雰囲気で、また力強いアドバイスもあり、予定していた45分のグループワークは矢のごとく終了しました。

参加者
アンケート結果

参加者23名のうち15名から
回答が得られました。

満足度

0点(よくなかった)から5点(大変よかった)まででスコアをつけて頂いた結果、「腫瘍・手術部門のキャリア形成」(加藤裕史先生)の平均点数は4.86点、「アレルギー部門のキャリア形成」 (峠岡理沙先生)の平均点数は4.93点と概ね満足度が高かったことが伺えます。ワークショップに対しても平均点数が4.93点と概ね好評でした。

参加者自身のキャリアデザインについて考えが変わったか

0点(特に変わらない)から5点(大きく変わった)まで点数付けをして頂いた結果、平均点数が3.92、標準偏差が0.7と参加者の中で受け止め方に差異があったことがうかがわれました。しかし、自由記載で設けた参加者からの意見欄では「キャリアについて具体的に考え直す良い機会となった」「今後もサブスペシャリティ形成の話題を取り上げてほしい」「現在活躍されている先生方の講演を聞いてからのワークショップだったので、モチベーションが上がった」との声が聞かれ、本会の狙いは一定の成果を得られたのではないかと考えています。