日本皮膚科学会キャリア支援

受賞者インタビュー

令和元年度基礎医学研究費(資生堂寄付)の受領者に選ばれた群馬大学内山明彦先生と同大茂木精一郎先生にキャリア支援委員岸部麻里が研究内容や医局運営などに関してお話をお伺いしました。

内山 明彦

(うちやま あきひこ)

群馬大学医学部付属病院 医員
2008年、金沢医科大学卒。
2010 年、群馬大学皮膚科 入局し、
2015 年同大博士課程修了。
2016 年、米国 NIHへ留学。
2019年4月より現職

茂木 精一郎

(もてぎ せいいちろう)

群馬大学皮膚科准教授。
1999年群馬大学卒業後に皮膚科入局。
基礎の研究室(生体調節研究所)にて
大学院博士課程修了。
米国NIH皮膚科に留学。
2017 年より現職。

研究について

岸部: 内山先生、基礎医学研究費受賞おめでとうございます。受賞された研究の内容について、まずお話しいただけますか。

内山: 「転写因子SOX2を用いた急性期褥瘡における 新しい治療法の開発」で受賞させていただいました。元々 は口の中の傷が皮膚の傷と比べてなぜ良くなるのかという臨床的な疑問点からこの研究が始まっています。臨床医の先生は経験的に口の中の傷が治るというのはご存じだと思います。
健常人を用いた臨床研究を行ったところ、やはり口の中の傷のほうが皮膚よりも早く治ることがわかりました。
その原因を解明するため、網羅的な遺伝子解析をしました。口腔粘膜に高発現している遺伝子で、かつ皮膚の細胞でほとんど発現していない遺伝子の中からターゲットを絞っていき、最終的にSOX2という転写因子に着目しました。in vitroの検討を行ったところ、SOX2が細胞の遊走能を促進させることが分かりました。この遺伝子を皮膚で発現させれば、口の中の傷のように皮膚の傷が早く治るのではないかと思い、実際に皮膚表皮細胞特異的にSOX2を発現させたマウスを使ってコントロール群のマウスと傷の治りを比較しました。するとやはり皮膚にSOX2を発現するマウスで傷が早く治るということが分かりました。
更にメカニズムを調べたところ、最終的にSOX2はEGFRのリガンドの産生を促進させることで表皮細胞の遊走能を促進することが分かりました。また、EGFRシグナルは表皮だけではなく、真皮の血管新生や線維芽細胞の遊走能を促進させることが知られています。皮膚表皮細胞に発現させたSOX2が成長因子を介して表皮・真皮を制御して創傷治癒を促進するということが分かりました。我々、群馬大学の研究室では、以前から急性期の褥瘡に着目して研究をしています。急性期の褥瘡において皮膚にSOX2を発現させることで、酸化ストレスなどを抑制し、潰瘍形成を防ぐことができるのではないか、また生じてしまった潰瘍についてもSOX2が早期に治癒させるという仮説を立てて、今回の研究を着想しました。 この検討がうまくいけば、これまでになかった転写因子を用いた新しい治療方法の開発ができるのではないかと期待しています。

研究のきっかけ

岸部: 内山先生の今回の研究は、茂木先生とかなりご相談されて進めているのですか?それとも内山先生が主体となって、茂木先生は見守るかたちですか?

茂木: 彼が留学に行く前は、私が考えたことを指導していましたが、帰ってきてからは、彼自身のオリジナル を活かしています。内山先生には、新しく入ってきた大学院生や外国人の留学生の指導やスケジュール管理をしていただいているので、かなり助かっています。

岸部: 内山先生どうですか?茂木先生からもう少し指導を受けたいとか、何かありますか?

内山: 茂木先生は必要な時は必ず時間を作って聞いてくれますし、全体ミーティングで適宜修正をしてくれます。またある程度任せていただける部分もありますので、 お互いの知識を共有して、方向性を決めるということでやらせていただいています。そのため現在は非常に良い環境で仕事が出来ています。

岸部: 内山先生は研究を勧められて始めたのですか? それとも自ら研究したいと思われたのですか?

内山: 私が臨床を始めて2年目のときに茂木先生が留学から帰ってこられました。ちょうどその頃、外病院で臨床をやるか研究をやるかなど今後をどうするか迷っていた時期でした。研究をするにも大学にいないと次はないなと思ったので、茂木先生に「教えてください」とお願いし、研究を始めたのがきっかけです。最初から「ずっと研究しよう」と決めていたわけではなく、「やってみようかな」という軽い気持ちで始めて、ここまで続いています。

岸部: 最近若い先生で"研究離れ"が増えていますが、 群馬大ではいかがですか?

茂木: 全員が研究をしたいというわけではないと思います。以前は「やりたいです」という人は少なかったですが、最近は少しずつ増えています。内山先生も最初は興味を示さなかったのですが、こちらから粘り強く勧めました。

内山: 私も確かに1回断りましたね。

岸部: あ、そうなのですか?(笑)ためらう理由は何だったのでしょうか?

内山: 2年間大学にいて「もう少しcommon diseaseを診て皮膚科の臨床医としての力もつけたいな」という気持ちがありました。
ただ、皮膚科医として一番必要な"診断をする"という能力に関しては、研究を続けても落ちることはないと思い、決断いたしました。

岸部: 茂木先生も、診断能力は研究しても落ちないと思いますか?

茂木: そうですね。研究をやることが臨床の1つであって、臨床と研究は別々ではなく、臨床の延長上に研究があって、研究をすることでより臨床力がつく、臨床力が深まる、ということを、具体例をあげて説明しています。最近では、研究を始めた先生たちが、「研究も臨床も両立できる」ということを、まだ研究を始めていない若い先生に伝えてくれるようになったので、以前より若い先生が研究を始めやすくなったと思います。

働き方改革に対応するシステムづくり

インタビュアー

岸部 麻里

(きしべ まり)

旭川医科大学皮膚科講師
1998年、旭川医科大学卒。
一般病院勤務を経て、
2006年、同大学院博士課程修了。
2008年、同大学育児介護復職 支援センター助教。
2013年、ロヨラ大学シカゴ校医学部留学。
2015年4月から現職。

岸部: 女性が参加できるように勉強会や総回診を、となると、なかなか時間見つけられなくて難しいですね。 群馬大の先生方は、どのように工夫されていますか?

茂木: 回診やカンファレンスは、時間外とならないように工夫しており、全員が参加できるようになっています。

岸部: いま子育て中の女性の先生も研究はされているのですか?

内山: はい。大学院生が2人、ママさんで研究をしています。

岸部: お二人とも男性医師として、そういった女性の場合、時間的な制約もあるかと思いますが、心掛けていることや気を遣うところがあれば教えていただきたいと思います。

内山: 小さいお子さんがいる場合は、終わりの時間が決められていますし、土日は来られない日があります。 そういうときはその彼女にスケジュールを決めてもらい、自分で出来ないところは代わりに男性医師がサポートして、二人三脚でやるというスタイルでやっていますね。そうすると彼女も気兼ねなく実験の予定を立てられるので、例えば、ある実験が「この日はできないから、来週になってしまう」ということがなくなり、私も「まだやっていないの?」というストレスもないですし。そういう環境のおかげで良いチーム関係ができていると思っています。

岸部: 結構、男性医師の中で、女性をサポートするは男性ばかりが疲労すると言われることもありますが、そういった傾向は、群馬大の中にはありますか?

茂木: むしろ男性医師が女性医師に助けてもらっていますし、お互いにサポートしています。

内山: そうですね。

茂木: 子育てしながら臨床や研究している人は、突然子どもの用事で来られなくなることも多々あります。そういう場合も気兼ねなく連絡して、すぐ他の人に引き継げるようなシステムを作っています。自分1人でしょい込まないで、いろいろな人で助け合いながら仕事をするように指導しています。

人材育成

岸部: 内山先生から見る茂木先生は、ロールモデルとしていかがですか?

内山: 昔はついていくのが精一杯でしたが、1度大学を離れて帰ってきてみると「やはり非常に能力のある優秀な先生で、指導力も卓越している先生だな」というのを最近改めて実感いたします。ご自分の仕事以外にも教室全体を把握して、人を適切に動かすことが出来る先生はなかなかいないと思います。私としても非常に良い環境にいますし、今後、そういったいいところを自分で吸収して後輩の指導に生かせればと思っています。

岸部: 良い師弟関係ができていらっしゃいますね。先生方は、日本研究皮膚科学会のお仕事もされていますよね、 きさらぎ塾など。
日本皮膚科学会では、Clinical Dermatology Leadership Seminar がありますが、何か期待 するところはありますか?

茂木: 大学や病院で、リーダー的に活躍してくれる若い皮膚科医がどんどん育ってくれることで、「皮膚科に入りたい」、「皮膚科は面白そうだ」と思う研修医や学生が増えてくると思います。そういったキラキラした若手医師がいかに多くいるかということが、その大学の一番の魅力につながるのではないかと思います。若手の先生が活き活きと活躍し、引っ張ってくれることが、皮膚科全体の発展にもつながるのではないかと思います。Clinical Dermatology Leadership Seminar は、そういう先生を育てることにつながる非常に有意義な会だと思います。
今後も Clinical Dermatology Leadership Seminar の様なリーダーを育てる会を継続していただければ良いなと思います。

岸部: ありがとうございます。個人の成長のみならず、 学会全体で皮膚科が発展できるような会になると確かに良いですね。
今日は貴重なお話をありがとうございました。