宇原 久先生のコレ !
札幌医科大学医学部 皮膚科学講座 教授
DNAでたどる日本人10万年の旅
多様なヒト・言語・文化はどこから来たのか?
著:崎谷 満 昭和堂
ウッチーと長友とGreat Journey研修医時代に読んだ本ですが、「新ウイルス物語― 日本人の起源を探る」(日沼頼夫 著、中公新書)は衝撃的でした。感染症と人類学がつながったのです。世 界各地から採取した病原体の遺伝子の比較から進化 過程で分岐した年代が推定できます。
HTLV-1(を持ったヒト)は7万年前に東アフリカを出発し、分岐した一群は東アジアから日本、ベーリング海峡を越えて南アメリカに到達しました。HTLV-1 の日本人型はペルーのミイラや現在のブラジルから、 西アフリカ型がカリブ諸島にみられ、近代にいたるまでのヒトの大移動の跡が確認できます。
HTLV-1(母乳感染)に限らず、感染経路が小さな集団内にとどまる病原体であれば、現人類のゆっくりとした移動が推測できます。ピロリ菌(唾液)、らい菌(乳幼児期)もHTLV-1で推測された人類の拡散パターンと似ていました(なぜかハンセン病はベーリング海峡を渡れなかった)。肝炎ウイルスのヨーロッパ型が愛媛に確認され(日露戦争後の捕虜収容所があった。捕虜は結構自由だった?)、結核は弥生系(弥生時代以後の骨のみに脊椎カリエスが確認できる)など、(私の)興味は尽きません。感染症以外にもVogt-小柳原田病(HLA-DR4+)は縄文系、ネイティブアメリカン、アボリジニ、イヌイットなどに発症し、HTLV-1の分布と似ています。
本書はY染色体分析と言語学による現人類の移動(主に東アジア)のレビューです。Y染色体遺伝子系統は、AB(アフリカ固有)、C(アフリカを出た第1 グループ)、DE(同第2グループ)、F-R(同第3グループ)に大別されます。日本に居住するヒトには多様な系統が確認できますが、東アジア大陸では新しい系統(O:黄河や長江系)が主体です(中国や韓国には HTLV-1キャリアも稀です)。長年の大陸における民族の存亡をかけた凄まじい戦いから逐次日本列島に逃げ込んできたのだろう、そして、結果として何万年にわたり逐次アフリカを出発した人々が日本列島で落ち合ったともいえる、と著者は述べています。これまでのサッカー日本代表メンバーの顔を思い浮かべて、納得したのです。(記述には不確定な内容を多数含みます)