日本皮膚科学会キャリア支援

全国勤務状況調査からみる 皮膚科の未来

「皮膚科医の勤務状況に関する実態調査」

専門医主研修施設・研修医施設を対象とした調査

(2019 年8月13日〜2019 年9月30日)
(主研修施設は期限を2019 年12 月に延長し追加調査を実施)

会員全員を対象とした調査

(2019 年 8月13日~2019 年10月30日)
主研修施設回答率 69.2% 74/107施設 (2019年9月30日時点)
会員回収率 18.7%
2019年2月に厚生労働省からの資料「診療科ごとの将来必要な医師数の見通し(たたき台)について」で、皮膚科医の医師数が近い将来過剰になるという結果が提示された。これに反して、 実際に働く私たち皮膚科医からは、皮膚科医が不足しているという声も多く寄せられていたため、皮膚科医の勤務状況の実態を正確に把握するためにアンケートを行った。 主研修施設の8割が、人材が不足していると感じていた(図1)。

図1 図2

しかし、医局員の数、関連施設の病院数は10年前と比較して増加、または不変と答えた施設が7割ぐらいあり(図2)、実際のところは減少していなかった。
一方で、学会に所属している男女比をみると主研修医施設では、15年目までの世代で女性の割合が高く、会員全体でも20から40代で女性が多いことがわかる(図3)。
また、5年目までの経験年数でも主研修医施設を退局する医師が多くいることがわかった(図4)

図3 図4

会員対象の調査結果で、20、30歳代の世代は、皮膚科のどの分野に対しても後進への指導ができるようになりたいという意欲があることがわかった(図5)。

人材不足から人材育成へ

人材不足

◆ シーリングは、東京の周辺地域には効果がありそう。
◆ 重症患者をみる拠点病院があれば、地域医療を支えられるのでは。

石河: 5年で辞める人がこんなに多いのは、専門医を取ったら辞めるというモチベーションがあるのと、女性に多い理由は、やはりライフイベントのためですよね。子どもができて辞める。ちょうど5年位で合致している為、この年代で、特に女性で目立ってしまっていると思います。

渡辺: 横浜市立大学の場合、5年未満で辞める方は大体が女性の医師で、研修医のうちに結婚され、2年、3年ぐらい働いて妊娠、出産で離職し、その後、育児で復帰できなくてそのまま退局というパターンが多いです。専門医を取って辞められるというよりは、おそらくライフイベントの影響のほうが大きいのと、そのあとの復帰の体制が整っていなくてというところです。

石河: これについては、地域差もあるのではないかと思います。東京都内では結婚して出産をしてもパートタイマーでお金は稼げる環境が周りにあります。地方だとなかなかそういう環境がないので、all-or-noneのチョイスを迫られます。地方ではフルで復帰することが頭にあるのですが、都市部は残念ながらフルタイムでの復帰をなかなか考えてくれないというのが現状です。

青山: 退局の理由には地域差があり、女性ではライフイベントが大きく影響する ということです。特に地方では皮膚科医の人材不足感が強いのですが、シーリングをなくすと解消するでしょうか。

山﨑: 東北地方は都会部でのシーリング施行前後での専攻医応募数に変化はないようですね。

東: 都会で働けなかったからって、地方に来るわけじゃないですから、地方はどうしても、関係ないですよね。

青山裕美(キャリア支援委員会委員、川崎医大)  石河 晃(専門医認定委員会委員長、東邦大)

青山: シーリングがあろうがなかろうが、地方は人材不足である。大事なポイントですね。

石河: 今回の募集採用状況を見ると、東京は大きく減りました。その人たちがどこに行ったかというと、東京から千葉、埼玉、といった周辺地域に移っています。ドーナツ化現象みたいなことが起こっていて、周辺地域には多少なりともシーリングは効果あるのだと思います。今、最も危惧しているのは、シーリングによる激減により教える人たちがいなくなることです。日本専門医機構はいま厚労省が算出した必要医師数に向かって近寄せようとしているのですが、それをもっと早めようという議論が専門医機構の会議で出されました。
ある期間に極端に採用医師数を絞ると将来の指導医がいなくなるので、小さな領域であれば潰れてしまうということが起こりえるとして反対意見を述べました。
シーリングに関しては本当に慎重に進めていただかないと、将来に禍根を残しています。

梅垣: シーリングがかかることで本当にやりたいことがある人が、本当にやりたいことができるところに行けない可能性もありますよね。

青山: シーリングによって地方の皮膚科における人材不足は解決しないという予測で皆さん合意ですね。では、人材不足感を解消するための方策についてご意見ありますか?新人を増やす方法と、離職を抑制する方法があります。

山﨑: 退局者を減らすという方策と、あと派遣先を減らすという手もありますよね。集約化していくという考え方です。地方の市町村によっては、皮膚科開業医さんもいないところなんていくらでもありますからね。内科、外科でやっている人が皮膚科を診療を担保して頂いていて、いざという時は大学病院などの中核病院に紹介をいただく。このように皮膚科医療が集約化されていればいいという考え方もできるわけですよね。

石河: 皮膚科では、地域医療の多くを開業の先生が担っていて、重症患者を病院が診るかたちになっています。皮膚疾患は外来で扱う病気がとても多く、そうすると専門医を取った開業の先生が地域にきちんといることが、地域医療のためにはとても重要なのです。重症患者は集約化して、バックアップ施設である病院に送り込むことによって、地域医療を支えればいいのだと思います。病診連携をしっかりすることが重要です。

青山: 地域によっては、プライマリーケアを担当するのは皮膚科医でなくても、内科医の場合もあり得ますが、皮膚科の地域医療ということを考えると、しっかりと研修・経験を積んだ皮膚科開業医が必要です。最前線で奮闘中の先生方は、人材不足をどんな時に感じますか?

東 裕子(キャリア支援委員会委員、鹿児島大)  山﨑研志(専門医認定委員会委員、東北大)

渡辺: 当教室の場合は、いままさに直面しているのが、関連病院の部長をやれるような人材が少なくなっている点です。ナンバー2はいいですけれども、トップはやりたくない。トップをやるにしても、2人などの病院は問題ないけど、4人から6人、まさに地域の中核病院の部長はやりたくないという方が多く、配置するのが結構大変です。

青山: 全く人が足りていないわけではないが、やはり指導医は足りていないということですね。

梅垣: 全く同感ですね。空洞化していると思います。大体10年ぐらいを超えて専門医を取ってそこから続けている場合はそのまま何らかの自分なりのキャリアのイメージがあって続けることが多いと思うですけれども、大体やっぱりこの統計にある通り、5年~10年で大体辞めるっていうのが自分のキャリアの行く先が見えないまま辞めてらっしゃるのかなというのが1つです。
あともう1つは、入って1年、もしくは2年以内に辞める方が多いとも思っていて、入局して私はこれこれをやりたいのに写真の整理をさせられるとか、こんな雑用は私の仕事じゃないと言ったりとか、やはり、キャリアを積むために、1つ1つというステップアップをしながら6年かけて専門医を取るっていう意識が入局の段階でないんだなというのも感じています。
指導できる人がいないので、自分の将来、あ、こんなふうになりたいなというモデルもいない。となると、私は一体どうしたらいいのかと思いつつ悩んで、相談する人もいないまま辞めてしまうというのも多いのかなと思います。

青山: 理想的には20年以上キャリアのある医師、10年~15年ぐらいのキャリアのある医師が何人かいて、10年以内のキャリアの医師を指導していくというのが理想ですが、ちょうど10年~20ぐらいの間が非常に少ない。

梅垣: そうですね。

人材育成

◆ 少ない人材を大事に育てる。
◆ 学会主催での後期研修医対象の育成企画。
◆ 専門医取得後の若い世代を座長やコメンテーターに抜擢。

青山: どんな人材を育成したらよいでしょうか?

山崎: 医師というものは、看護師他の医療従事者の指導であったり、医療全般の指導であったりします。医師法にちゃんと医療を取りまとめる医師という、医の師という名前がついていることにも表れています。医療をする人、者を、私はただの医者だと呼ぶのですけど、医の師としての心構えを持つということは、医療チームの上に立つということもそうだし、次世代の医師を指導することもそうだし、また患者を指導することもそうだし、看護師を指導することもそうだし、医師としてあるべき姿勢や進むべき過程を理解して卒業できているかどうかというところなんだと思います。

青山: 実際に、アンケートを取ってみると、若い世代に、部長(診療責任者)を場合によってはやってもいいと思っている人がいることがわかります。しかし40代になるとその割合はぐっと減ってしまう。いかに志のある方を発見して、ライトタイムに適切な指導、経験やチャンスを与えていくかが重要なのではないかと思うのですが、そのために、医局や学会が何ができるでしょうか?

山崎: 日本の医療が根本的に難しいと思っているのが、チャンスを与えることとかモチベーションを与えることができても、インセンティブは何も与えられないことです。日本は診療報酬を押さえられていることもあり、モチベーションを上げたとしても、結局自分のやりたいことをやってある程度収入を上げようと思うと、もう開業しかない。だから勤務医が減っていくというのはあると、だから複数の皮膚科医が勤務して手術等もしっかりとこなせる拠点病院を整備していくことが必要だと考えています。

青山: 少数精鋭で医療を拠点化するということですね。もう一点日本皮膚科学会が抱えている根本的な問題として、男性会員数が減っているということがあります。当然指導医になる男性医師数も減少していきます。もともと少ない人材をできるだけ落伍させずに育てていく必要があるんです。少数精鋭で診療拠点を維持する。何らかの介入をして、よりよい人材を輩出する工夫をしていかないと現状は維持できないと思います。

梅垣: あの、宿直回数が男性と九州が多いとありますよね、だからいまの話を聞くと、相対的に、男性の負担がものすごく大きくなっていると思うんです。女性のライフイベントに男性は心折れることなく、それでも頑張ってくださっているので、男性医師がもっと働きやすくなるような、ストレスを感じなくていいような職場にすべきなんじゃないかなと私は個人的に思っていて、そうするためには女性がもっと頑張らないといけないと思うんですね。だから、男性にいま、もう十分負担がかかっているところに、さらにもっと頑張れじゃなくて、女性がもっと頑張ることで男性の負担を軽くすることはできませんか。

東: うちは、女性のほうが多くて、実際1歳ぐらいの小さい子どもがいる人ももう病棟も持っているし、常勤で働いていて、当直もしているというような状態で、女性もやっているけれども、回っていかない、もう苦しい状況なんですね。
きっとうちみたいな地方というのは結構あるのじゃないかなと思ってます。そこでは、すでに限界超えていて、人数的に、そこの単独の大学だけで人材育てていくっていうのもちょっと厳しい状況かなと。まあ実際働いている人がキツイとか不満があると、それを見ている学生がそこに入局したくなくなったりとか考えられる。そういうことを考えると、学会全体で、地方の少ない人材のところでも皮膚科医をしっかり育てていけるような仕組みをできたら作ってほしいと思います。若い世代が活躍できるような場所、JSIDあおば塾とかきさらぎ塾みたいな、臨床の場面であのような感じで育てられるような機会を作ってもらえたらもっといいのかなと思います。他の大学の先生とも知り合いになれるし、互いに刺激することによって辞めることの歯止めにもちょっとなるのではないかなと思います。

梅垣知子(東京女子医大東医療センター)  渡辺友也(横浜市立大)

青山: 大変な思いをしてらっしゃる先生達は、恐らく専門医を取るまでは頑張る。大変だからこそ取ったら辞める現象は、専門医取得前に介入する機会があったらとめられるでしょうか。

山崎: 東部支部で、10年ぐらい前から、CPCの会というのを東部支部がやっているんですね。東部支部会の企画の1つとして、皮膚科研修中の専攻医を各大学医局から1−2名ずつ推薦頂いて、6人ずつぐらいのグループに分かれて臨床情報と病理画像から診断を導き出すCPCを行います。この時には疾患についてのディスカッションを行った後に、懇親会をおこなって、医局を超えた交流を持つ機会を設けいています。このCPCPを契機に、参加者同士で別の学会で出会った時などに交流を続けたりしています。このような医局・プログラムを超えた同世代の交流も、皮膚科医としてのモチベーションの維持や学会の楽しさを理解するために大切な機会だと思います。

青山: いま、サマースクールが大好評で、毎年応募数が増えています。皮膚科の面白さをギュッと伝えています。それを皮膚科に入った後期研修で大変な時期にやってみるっていうのもモティベーションアップや専門領域の研修研鑽の入り口になるのかなと思うんですが、いかがでしょうか?

渡辺: 実際に今年の新人局員にサマースクールに参加した方が入っています。きさらぎ塾はそこまで規模は大きくなく、大体30人ぐらいです。あおば塾も50人程度ですので、そういった意味で少し裾野を広げてやるというのはすごくいい案だと思いますし、やはり、横のつながりができるのは良いと思います。僕はいまだにきさらぎ塾の参加者の先生方と連絡を取り合っていますし、他大学の情報が入るとまたいろいろと自分の世界も広がりますし、そういうのはすごくいい案だとは思いますね。

青山: 押しつけでなく、その世代の人たちが聴いてみたいような講演や、身につけたいようなテクニックを学ぶような機会になれば良いですね。

石河: 本当に必要なのは、自分の施設にメンターがいることです。メンターというのはすぐに相談できる人であるべきで、そういう世代がいま少なくなった気がします。メンターになるべく人がちゃんと施設に残っているような制度にすることが大事です。専門医取得要件をどのよう工夫しても、専門医を取得後に辞めてしまえば状況は変わりません。取得した人にどうやって教えるモチベーションを持たせてメンターにするかといいうことを考えたほうがいいと思います。

青山: Clinical Dermatology Leadership Seminarですね。キャリア支援委員会で、専門医取得後の医師を対象に、指導医を育てる企画も行っています。

石河: 1つ、制度的に何かを作るのであれば、専門医ではなくて指導医に関することだと思います。指導医の定義をもうちょっとしっかりと規定し、指導医を持ったら何ができる、何をしてよい、など明らかにして、本当はインセンティブがそこにつけば理想的です。そうやって専門医の上の目標を作っていかないといけないと思います。今の制度では最終目標が専門医を取得することになっていて、実際そのゴール切ったらもう次はありません。

青山: そこにインセンティブやが必要だと。

石河: そうです。今の制度の中では指導医として専攻医を指導し評価を付けると専門医更新単位が1単位もらえるといった程度のものはではあるのですけど、もっと指導医を優遇するような制度がほしいです。

青山: 忙しい中で参加するためには、メリットがある、単位がもらえるといった仕組み作りはあったほうがいい。

渡辺: いま日皮の総会などで、指導医講習会が開催されています。あれをもう少しその様なかたちで使えたりすると良いと思います。専門医を取った後に対象となる企画はきさらぎ塾と臨床系ですと、青山先生が委員長をされているキャリア支援委員会が行なっているClinical Dermatology Leadership Seminarぐらいしかないので、もう少し専門医取得後の教育という意味でも似たような会をやると良いと思います。

石河: そうですね。

青山: 最近、学会で発表しても良いディスカッションがなかったりすることが多いんですよ。質問がないとか。

梅垣: 座長をもう少し若い年代にしたらどうかなと思っていて、座長がおどおどするケースがあってもいいと思うんですね。そうしたらちょっと上の大御所の先生が、それはねってフォローしたり。フロアでもうちょっとディスカッションできるようになりませんか。

渡辺: 地方会くらいからそういう座長を若い先生にやらせるとかはどうでしょう。

石河: 座長は座長で、やはりレフェリーとして場を仕切る人として置いといてもいいかなと思います。その上で、事前にコメンテーターを1人指名しておくというのもアリですよね。発言した人になんらかのポイントをあげる等の仕組みを入れて。前もってわかっていれば、その演題の勉強しますからね。

渡辺: そうですね。もう必死にやりますね(笑)。

石河: そうですね。せっかくプログラムによる制度があって、その傘下の施設が明確で、指導医、専攻医の名簿がありますから。その中から、プログラムの指導責任者がコメンテーターを推薦するようなかたちにすればあっという間に出来上がると思います。

青山: 専門医の研修中に専攻するサブスペシャリティを決めて登録する?

石河: 勉強するには自分の専門領域でないほうがむしろいいと思います。コメンテーターというよりは、質問者ですよね。

青山: 学会を盛り上げ、サブスペシャリティをつけるための意見がいろいろ出ました。今後キャリア支援委員会で実現していきたいと思います。いろいろご意見いただきましてありがとうございました。

座談会を終えて

(キャリア支援委員会委員、鹿児島大)
東 裕子

議論は活発でありながら、笑いのある和やかな雰囲気の座談会だった。ここに記した内容は、全体からみると5分の1程度にすぎない。トピックとして、特に若手の育成に焦点をあてたが、いろいろなアイデアがでてきて有意義なものだったと個人的にはとても満足している。
座談会のメンバーは、年齢の幅、男女、地方vs都会を意識して人選した。文字面だけでは伝わりにくい、魅力的なそれぞれの先生方の様子は、私の一方的な印象だけれども、おだやかな口調ながら、鋭く論理的な石河先生、斬新な意見を持ち、尚且つ多方面からの切り口にも応える青山先生、経験と底なしの知識・情報から淀みなく意見を述べられる山崎先生、仕事への真摯さがにじみでていて、芯の通った意見をお持ちの梅垣先生、常に空気を悪くすることなく意見を述べる、さすがは医局長の包み込むようなやわらかさが漂う渡辺先生といったところだ。
アンケートを実施してよかったと思う点は、やってみなければわからなかった予想外の結果が得られたことだ。今回のトピックもその中の一つで、教育機関での人材不足が、実質的な労働力低下からきていた。若手が皮膚科のさまざまな分野で知識や技術を習得し、将来後進を指導できる皮膚科医になりたいと意欲的である反面、現時点では女性の指導医が男性よりも少ないこと、役職や地方勤務を避ける傾向、宿直や日直の片寄、育休後の復職など、さまざまな問題も浮き彫りになった。
ポストコロナ、AIの台頭で、環境も人々の働き方や考え方も、めまぐるしい速さで変化していて、今までのやり方を推し進めていくだけは、解決できないと感じる。社会が求める皮膚科医療とは何か、質の高い医療を提供するための皮膚科学の発展や人材育成など、どんな形で進めていったらよいのか、将来を考えるときにこの会員調査が少しでも役立って欲しいと思う。