2019年12月8日(日)と 2020年1月11日 (土)の2回にわけ、1日目に戦略的思考とは何かを学び、2日目に1日目に学んだ内容を参加者各々が持ち帰り、自らの課題を検討し、2日目に皆で検討するという内容である。
今回も講師はトッパンマインドウェルネス株式会社さんにお願いしセミナーを執り行った。
第 1 回目で行った「ファシリテーションスキル」は集団でその効果を大いに発揮するが、 戦略的思考セミナーは、個人の「ものの見方」の変化を通じて、集団の「ものの見方」を変革していくことを主眼においている。
読者諸氏には、誌面をとおしてセミナーの様子を感じていただき、多忙な毎日の中での 「ものの見方」を再度検証いただき、お役に立てていただければ幸いである。(N)
1日目
戦略的思考とは何か?
「リーダーとして活躍している皆さんは、意識、無意識にかかわらず、戦略的にいろいろな見方をもって進んできた方が多いと思います。このセミナーであらためて戦略的思考を学ぶことで、さらにステップアップにつながると期待しています」との蓮沼直子先生の言葉で始まったセミナー第1日目。トッパンマインドウェルネスの松井亜希子講師、坂口雄人講師から戦略的思考の基本知識、スキルをケーススタディをとおして学んでいきました。
日々の戦略的思考の意味と必要性
まずは、講師と参加者の自己紹介。参加者には、自分が戦略的だと感じている人とその理由をあげてもらい、それぞれがもつ戦略的思考のイメージを共有しました。秋元康、米津玄師など有名人の名も上がり、会場はリラックスしたムードになりました。坂口講師は「戦略的思考というのはわかったようでわからない言葉」と前置きし、このセミナーの目的を説明。その目的のひとつ「日々の戦略的思考の意味と必要性」のイントロダクションとして、ケースを読むグループワークが行われました。
ケースは、"出産後に復職した女性皮膚科医師が今後のキャリアをどう歩んでいくか"という、どこの現場でもみられるテーマ。このワークでは、同じ状況下にあっても、見方、捉え方、考え方が異なる甲さんと乙さんを比較して、その違いをグループでディスカッションしながら書き出していきます。
身近なテーマだけに、グループ内のディスカッションも盛んに。結果、甲さんに対して、 乙さんは戦略的だと発表しました。
坂口講師が「皆さんも甲さんのように戦略的に考えられるのか、自分を振り返ってみてください」と問いかけると、「甲さんのときもあるし、乙さんのときもある。常に乙さんみたいなるにはどうしたらいいか」という声に、共感する空気が流れました。
講師
自らの実践から学び、成長する組織をつくるコンサルテーションに取り組んでいる。研修では、管理職にコーチング、ファシリテーションなどの対話スキルや、次期リーダー層に自分と現状を客観視し目的を描く思考スキルのプログラムを提供している。 組織内で方針を検討したり、問題点に向き合うような対話機会の設計運営実績も多数ある。
松井 亜希子
株式会社トッパンマインドウェルネス 取締役
大学卒業後、凸版印刷株式会社に入社。事務企画部門、品質管理部門、販促部門にて多様な職務に従事する中で、 人を組織で活かす仕組みづくりに問題意識を持つようになる。2003年8月トッパンマインドウェルネスの社内公募に応募。自らの実践から学び、成長する組織をつくるコンサルテーションに取り組んでいる。研修では、管理職にコーチング、ファシリテーションなどの対話スキルや、次期リーダー層に自分と現状を客観視し目的を描く思考スキルのプログラムを提供している。 組織内で方針を検討したり、問題点に向き合うような対話機会の設計運営実績も多数ある。
講師
坂口 雄人
株式会社トッパンマインドウェルネス
大学卒業後、リクルートにて新卒、中途採用支援業務に従事。事業会社にて販促、マーケティング支援業務。 コンサルティングファームにて、事業デューデリジェンス、戦略策定、オペレーション改善等を経験する。組織に対して多様なポジション、観点でかかわった経験を活かし、チームを機能させるベースとなる信頼関係の構築や、コミュニケーションの促進を通じて事業成長とそこで働く人のモチベーション向上の実現を目指している戦略的思考の特徴とポイント
「皆さんの感想のように、常に乙さんになれるのが、"日々の戦略的思考"です」と松井講師は話します。その特徴は、「与えられた状況をチャンスとして、1よりよい視点で2長期的 かつ短期的視点3相手の立場・気持ちに配慮する視点という3つの視点で考察し、状況を具体化する」こと。加えて「頭で考えるだけでなく、行動に落としていき、結果を出すことがとても大切です」と強調します。
さらに、技術の進化により、将来的には現在の仕事の多くが AI などに置き換えられるといわれてる中で、戦略的思考が仕事の価値の源泉になるとその必要性を指摘します。
「戦略的思考とは目的意識を持った多様な協 調性があること。つまり、戦略的になるということは、"時間単位で何をするか"よりも"何に注力し、留意すべきか"ということを管理すること。自分が大事にしていることを軸にして、戦略的思考を実行につなげていってほしい」と、戦略的思考のポイントは単なる進捗管理ではないことを示しました。
5つのステップ
いよいよセミナーは実践的な解説へ。どう思考を展開するか、戦略的思考モデルを5つのステップで説明していきます(図)。松井講師は、「戦略的思考が求められる人たちは、やるべき仕事が次から次へと発生する状況にあり、自分がやるしかない、これが片付かないと次が考えられないと自分で自分を追い込む傾向にある」と話します。そこで大切なのが、ステップ1『心を整える』。自分を追い込む捉え方、思い込みを書き出す作業です。 「書いたからといってやるべきことはなくなりません。でも、頭の外にいったん出しておくことで、頭の中にスペースができます。そのスペースで、何が大切か、何が必要か向き合ってください。その際に重要なのは、実行可能かどうかというのは脇に置くことです」さらに、自分に対して謙虚に問いかけるこ とも大事だと指摘します。"私はこれも、あれもできる"と思っていると思考が狭くなり、"誰が自分を導いてくれるか、どんなことが学べるか"といった意識になれないためです。戦略的思考がより具体化し、状況が前に進むために貴重な材料になるのがステップ2と3。ステップ2『課題を捉え直す』では、今までとは違う視点から現状を思考し、課題を捉え直します。その際に重要なのは、目的(その仕事の本質的な目的)、長期的・短期的な視点での将来的なメリット、そして周囲へのメリットを考えること。中でも、周囲に与えるメリットは、自分がもっている経験、認識からは違う視点から考えることにつながるといいます。
ステップ2で広がった関心をもとに、『知恵を集める』のがステップ3です。ここでのポイントは、「情報や知識を役に立つ"知恵"に変えていくこと。単に誰もが知っている情報を集めるのではなく、この情報はステップ2で考えた世界観にどう意味付くのかと考えていくことが重要です」と説明します。
また、ステップ2と3は時間も負荷もかかることだと指摘したうえで、「思考するのは自由です。枠にとらわれず、自分が"こうしたい"ということから考えて、実行するためのリソー スをいっぱい増やしましょう」と取り組みやすくなるための言葉をかけました。
ステップ4は、それまでのステップで戦略的 に思考したことを振り返り、具体的でとるべき行動が明確な『実行計画を作成する』ことです。
「"だいたいこういうところから動き始めたい " ということをしっかり具体的に整理するイメージで取り組んでほしい」とアドバイスします。
加えて、実行計画を作成するための重要なスキルとして、SMARTを紹介しました(図)。 SMARTの5つの要素に自分の考え方を落としていくと、"何からどうやって動くか"という ことが明確になっていくといいます。
「私の経験上、Rに対して、SとMがしっかりと説明できれば、AとTが出てきやすくなり、 自分のすべきことが明確になります」とR・S・Mの重要性を強調しました。
そして解説は、最後のステップ『粘り強くフォローする』へ。ここで重要なのは、ありたい姿の実現をあきらめず"やりながら学ぶ"こと。それには、計画をざっくりと組んだらとにかく早めに動き出し、他者に期待・予想以上の行動を見せて、インパクトを与えることが必要だといいます。
「地道に真面目にやっているだけでは、結果が得られません。『私はこういうことをやります』と打ち上げ花火をあげる感覚で、他者に始めの一歩を見せましょう」他にも、活用できる他者の力のリストアップ、振り返りの時期を決めるなど、ステップ5ですべきことについて解説がありました。
身近なテーマでステップを展開
実際には、順々にステップを踏むのではな く、各ステップの中を行ったり来たりしながら 思考が展開されていきます。その思考の手助 けをしてくれるのが、同社が開発したロードマップ(ワークシート)。ケーススタディをもとに、ステップ1〜5を書き込んでいきました。今回のケースも、医局の研修医教育担当と なった皮膚科医師という身近なテーマで、議論は盛り上がりました。終了後には解答例が配 布され、ワークで不足していた点、重要な点などを補っていきました。中でも、ステップ 4 の M の表現は難しいとし、「Mでは、Sで立てた計画に対し、どういうことを実現したいかという表現をすると、アクションが変わってきます。 SとMのセットをどう工夫するかが重要です」 とアドバイスしました。
終盤では、それぞれが戦略的思考を活用する テーマを探索し、言語化したものをグループ内で共有していきました。テーマの探索は、日ごろ感じる、繰り返し起こっている問題点が入口となるといいます。若手の指導体制、医局の中堅層の菲薄化、人手不足、業務の不平等さ、モチベーションの低下など、自身のテーマを明確にし、セミナーが終了しました。