周囲との信頼関係を築く
インタラクティブコミュニケーション
講師にお迎えしたのは、株式会社トッパンマインドウェルネス取締役の松井亜希子氏。座学だけでなく、ビデオ会議ツールのグループ分け機能を利用してグループワークやロールプレイングも実施され、活気あるセミナーとなりました。
講師
松井 亜希子 株式会社トッパンマインドウェルネス 取締役
大学卒業後、凸版印刷株式会社に入社。事務企画部門、品質管理部門、販促部門にて多様な職務に従事する中で、人を組織で活かす仕組みづくりに問題意識を持つようになる。2003年8月トッパンマインドウェルネスの社内公募に応募。自らの実践から学び、成長する組織をつくるコンサルテーションに取り組んでいる。研修では、管理職に対してコーチング、ファシリテーションなどの対話スキルや、次期リーダー層に自分と現状を客観視し目的を描く思考スキルのプログラムを提供している。組織内での方針検討や、問題点に向き合うような対話機会の設計運営実績も多数ある。 保有資格:キャリア・デベロップメント・アドバイザー(日本キャリア開発協会認定)
まずは、セミナー監修の蓮沼直子先生が「過去2回のキャリアアップセミナーでは、チームリーダーとして活躍するためのファシリテーションスキルや、戦略的思考を強化するためのワークショップを行いました。3回目の本セミナーではインタラクティブコミュニケーションをテーマに、さまざまなスキルや考え方を学んでいきます」 と挨拶。受講者全員の自己紹介へと進みます。
「年齢や考え方のギャップを踏まえ、上手にコミュニケーションを取れる技術と心を学びたい」「育児短時間勤務中なので、 短い時間で密に同僚とやり取りできるコツを習得できれば」など、アウトプットを意識している先生が多く、所属施設のタイプや年代、役職に違いはあれど「コミュニケーションスキルを磨いて、実践に生かしたい」という思いは共通の様子です。また、「コミュニケーションは医療安全にもつながるツールだと考えています。しっかり学んで 帰りたい」との発言もあり、オンラインながら引き締まった雰囲気に。
これを受け講師の松井亜希子氏は「部長や医局長として、また先輩医師として、若手に対して効果的な指導・育成を行うには、ベースにあるコミュニケーションが大切です。特に、コロナ禍で周囲の人とのコミュニケ ーションが取りにくい状態の中、どう信頼関係を築いていけばよいのか。そのヒントを持って帰っていただきたいと思います」と呼びかけました。
本セミナーの目的と流れを確認し(図1)、最初のテーマ「コミュニケーションの目的」の講義がスタートしました。「皆さんは医療者として、職場でどんな方々とコミュニケーションを取っておられますか」という松井講師の問いに、受講者から同僚医師、上司、医療クラーク、看護師、受付、他科医師、患者といった声が上がります。コミュニケーションの相手が明確になったところで、松井講師はアメリカの組織心理学者エドガー・シャインが提唱するコミュニケーションの目的について、次のように解説しました。
コミュニケーションには、自らの要求を満たすこと、他者を理解すること、曖昧な状況を明確にすること、優位に立つこと、協力的な関係を築くこと、自分自身を表現し理解することの6つの目的があり、これらを繰り返すことでコミュニケーションが深まります。この6つを実践するには、自分と相手との関係性を意識することが大切です」 さらに松井講師は、「相手との関係性に無自覚でいると、自然と格差が生まれます」と指摘。「コミュニケーションの目的を実現するには、相手との格差を縮め、 相手がどのような支援を望んでいるか見極める必要がある」とするシャインの考え方を提示して「、相手との格差を意識し、不均衡な関係性がフラットになるよう自ら行動することが良質なコミュニケーションにつながります」と強調しました。
「年齢や考え方のギャップを踏まえ、上手にコミュニケーションを取れる技術と心を学びたい」「育児短時間勤務中なので、 短い時間で密に同僚とやり取りできるコツを習得できれば」など、アウトプットを意識している先生が多く、所属施設のタイプや年代、役職に違いはあれど「コミュニケーションスキルを磨いて、実践に生かしたい」という思いは共通の様子です。また、「コミュニケーションは医療安全にもつながるツールだと考えています。しっかり学んで 帰りたい」との発言もあり、オンラインながら引き締まった雰囲気に。
これを受け講師の松井亜希子氏は「部長や医局長として、また先輩医師として、若手に対して効果的な指導・育成を行うには、ベースにあるコミュニケーションが大切です。特に、コロナ禍で周囲の人とのコミュニケ ーションが取りにくい状態の中、どう信頼関係を築いていけばよいのか。そのヒントを持って帰っていただきたいと思います」と呼びかけました。
本セミナーの目的と流れを確認し(図1)、最初のテーマ「コミュニケーションの目的」の講義がスタートしました。「皆さんは医療者として、職場でどんな方々とコミュニケーションを取っておられますか」という松井講師の問いに、受講者から同僚医師、上司、医療クラーク、看護師、受付、他科医師、患者といった声が上がります。コミュニケーションの相手が明確になったところで、松井講師はアメリカの組織心理学者エドガー・シャインが提唱するコミュニケーションの目的について、次のように解説しました。
コミュニケーションには、自らの要求を満たすこと、他者を理解すること、曖昧な状況を明確にすること、優位に立つこと、協力的な関係を築くこと、自分自身を表現し理解することの6つの目的があり、これらを繰り返すことでコミュニケーションが深まります。この6つを実践するには、自分と相手との関係性を意識することが大切です」 さらに松井講師は、「相手との関係性に無自覚でいると、自然と格差が生まれます」と指摘。「コミュニケーションの目的を実現するには、相手との格差を縮め、 相手がどのような支援を望んでいるか見極める必要がある」とするシャインの考え方を提示して「、相手との格差を意識し、不均衡な関係性がフラットになるよう自ら行動することが良質なコミュニケーションにつながります」と強調しました。
不均衡な関係を改善するために自ら行動するには、格差が生まれる背景を理解する必要があります。続いて講義のテーマは、コミュニケーションを阻害する要因である「ランク」と「バイアス」についての解説へ。まずは、ランクについて「人が、相手との関係性の中で持っている『特権』の高低差のこと」という定義が示され、「社会的ランク」、「文脈ランク」など、代表的なランクの種類について、説明がありました(図2)。
松井講師は、「ランクはいつも同じではなく、シチュエーションによって高くなることも低くなることもあります」と話し、一般的に高いランクにいるときは自分のランクに気づかないものの、低いランクになると被害者意識を感じやすいこと、高いランクからは低いランクの違和感や疎外感は気づきにくいことなど、ランクの特徴をわかりやすく解説しました。そして、「低いランクにいるときの違和感や疎外感に敏感になると、相手への理解を深めることにつながります」として、低いランクになったときに抱いた違和感・疎外感を思い出し、その経験を共有 するグループワークを行いました。
7分間のグループワークを終え、再び全員が画面上に集まり内容を共有。松井講師は「皆さんの社会でも、キャリアを積むほどに職場での立場が上がっていくと思います。それが悪いわけではありませんが、高いランクにいると自分の特権に無自覚になりやすく、ランクの低い人を必要以上に攻撃することもあります」と注意を促します (図3)。また、相手の発言を遮る、相手の意見を代弁する など、そのつもりはなくても相手を傷つけたり、侮辱したりしかねない発言・行動について具体例を挙げて説明。 「低いランクにいるときの疎外感や違和感に敏感になると、相手をより深く理解する助けになります」と、コミュニケーションのポイントを示しました。
続いて、コミュニケーションを阻害するもう一つの要因、「バイアス」の解説へ。松井講師は「バイアスは色メガネのようなもの」と話し、『この仕事は複雑なので、新人ではなく経験豊富なベテランに任せよう』など、物事を効 率よく進めるための判断基準としてバイアスが有効に働く場面もある一方で、「個人の経験だけで培ってきた色メガネをかけていると、相手を本当に理解することはできません」と強調します。そして、自分がどのような色メガネをかけて相手を見ているか、日頃から意識することが大切だとして、どのような状況で、どのような色メガネをかけたことがあるか、自分の経験を振り返る個人ワークを実施しました。
また、「部下に地方会での発表を勧めてやんわり断られたとき、専門医前なら発表すればいいのに、と思った。『どうして?メガネ』をかけていた」というエピソードに対して、松井講師は「発表を断られた後、どのように対応したのですか」と質問。次回の地方会では発表してもらう約束をしたとの回答に、「一度の経験に基づいてかけた色メガネをいつまでもかけ続けていると、相手との関係性に影響してきます。『どうして?メガネ』をかけたけれど、 メガネに囚われすぎず、切り替えて関わったことで次の発表の約束につながったところが素晴らしいですね」と感想を述べました。 グループワークの内容を全体で共有すると、「無意識のうちに色メガネをかけていたことに気づいた」という声が聞こえてきました。松井講師からは「ランクもバイアスもなくしてしまうことはできなくても、どう扱うのかが重要です。同じ問題が繰り返し起こっているときは自分のメガネを自覚して、一度メガネを外してみることも選択肢の一つです」とのアドバイスがありました。 「相手を変えることよりも、自分が変わることのほうが簡単です。ランク、バイアスについて理解することは、自分を変 えるためのヒントになると思います」「ランク」と「バイアス」について理解を深めたところで、セミナー前半が終了。
15分の休憩を挟み、後半では映 像学習とグループワーク、そして「承認」のスキルを学ぶ ロールプレイングへと続きます。
松井講師は、「ランクはいつも同じではなく、シチュエーションによって高くなることも低くなることもあります」と話し、一般的に高いランクにいるときは自分のランクに気づかないものの、低いランクになると被害者意識を感じやすいこと、高いランクからは低いランクの違和感や疎外感は気づきにくいことなど、ランクの特徴をわかりやすく解説しました。そして、「低いランクにいるときの違和感や疎外感に敏感になると、相手への理解を深めることにつながります」として、低いランクになったときに抱いた違和感・疎外感を思い出し、その経験を共有 するグループワークを行いました。
グループワーク❶ 低いランクの違和感・疎外感を抱いた状況を話し合う
グループワークはビデオ会議ツールのグループ分け機能を使い、4名のグループで実施。メンバーの発言を書記役が記録し、画面共有しながら進めます。「地域の病院間での会議で発言が受け入れられず、病院の規模によるランク があると感じた」「出身地でない地域で勤務しているので、 地元の話題についていけないことがある」「留学中、英語が得意でなかったので周囲の人となかなか打ち解けられなかった。ただ、帰国後周りの人に優しくなれたのが収穫だった」など、さまざまな経験が披露されました。7分間のグループワークを終え、再び全員が画面上に集まり内容を共有。松井講師は「皆さんの社会でも、キャリアを積むほどに職場での立場が上がっていくと思います。それが悪いわけではありませんが、高いランクにいると自分の特権に無自覚になりやすく、ランクの低い人を必要以上に攻撃することもあります」と注意を促します (図3)。また、相手の発言を遮る、相手の意見を代弁する など、そのつもりはなくても相手を傷つけたり、侮辱したりしかねない発言・行動について具体例を挙げて説明。 「低いランクにいるときの疎外感や違和感に敏感になると、相手をより深く理解する助けになります」と、コミュニケーションのポイントを示しました。
続いて、コミュニケーションを阻害するもう一つの要因、「バイアス」の解説へ。松井講師は「バイアスは色メガネのようなもの」と話し、『この仕事は複雑なので、新人ではなく経験豊富なベテランに任せよう』など、物事を効 率よく進めるための判断基準としてバイアスが有効に働く場面もある一方で、「個人の経験だけで培ってきた色メガネをかけていると、相手を本当に理解することはできません」と強調します。そして、自分がどのような色メガネをかけて相手を見ているか、日頃から意識することが大切だとして、どのような状況で、どのような色メガネをかけたことがあるか、自分の経験を振り返る個人ワークを実施しました。
グループワーク❷ 自分がかけた色メガネについて仲間と共有する
次に、自分の色メガネを共有するグループワークへ。2回目のグループワークとあってリラックスした雰囲気で進みます。「1年目の先生が患者さんの目の前で携帯を開き、文献検索していた。マナー違反ではないかと感じた私は『昭和メガネ』をかけていたと思う」「毎年実施しているイベントなのに準備ができない事務スタッフを、『ちゃんとやってよメガネ』あるいは『わかっているでしょメガネ』で見ている」など、ユニークなメガネが挙がっていました。また、「部下に地方会での発表を勧めてやんわり断られたとき、専門医前なら発表すればいいのに、と思った。『どうして?メガネ』をかけていた」というエピソードに対して、松井講師は「発表を断られた後、どのように対応したのですか」と質問。次回の地方会では発表してもらう約束をしたとの回答に、「一度の経験に基づいてかけた色メガネをいつまでもかけ続けていると、相手との関係性に影響してきます。『どうして?メガネ』をかけたけれど、 メガネに囚われすぎず、切り替えて関わったことで次の発表の約束につながったところが素晴らしいですね」と感想を述べました。 グループワークの内容を全体で共有すると、「無意識のうちに色メガネをかけていたことに気づいた」という声が聞こえてきました。松井講師からは「ランクもバイアスもなくしてしまうことはできなくても、どう扱うのかが重要です。同じ問題が繰り返し起こっているときは自分のメガネを自覚して、一度メガネを外してみることも選択肢の一つです」とのアドバイスがありました。 「相手を変えることよりも、自分が変わることのほうが簡単です。ランク、バイアスについて理解することは、自分を変 えるためのヒントになると思います」「ランク」と「バイアス」について理解を深めたところで、セミナー前半が終了。
15分の休憩を挟み、後半では映 像学習とグループワーク、そして「承認」のスキルを学ぶ ロールプレイングへと続きます。
休憩時間を利用して、受講者は5分ほどの映像を視聴。 セミナー後半は3名のグループに分かれて、映像について意見交換する
グループワークからスタートしました。
再び全員がメインルームに集まりグループワークの内容を共有した後、松井講師は「映像では上司が自分の言いたいことを一方的に伝え、部下の話が終わる前に話し始めたり、ため息をついたり、にらみつけたりしていましたね。これでは部下は自分の意見を上司に伝えることはできません」と、改めて問題点を指摘。また、口調や話す速度、声の高さなどの聴覚情報や、表情、ジェスチャー、視線といった視覚情報などの「非言語メッセージ」は非常にパワフルなので、ランクの高い人は非言語メッセージを発していないかどうか意識する必要がある、と注意を促します。
一方、ランクの低い人が発する非言語メッセージをキャッチすることも大切です。「映像には部下がうつむいたり、黙り込んでしまったりするシーンがありましたが、 上司は部下の非言語メッセージに気づいていませんでした。相手の反応を見て非言語メッセージをキャッチし、それに合わせた対応をすることで相手も話しやすくな り、相互理解が深まっていきます(図4)」と、松井講師は強調します。
「聞いてもらえないと感じる部下は、わかってもらえない疎外感や、助けてもらえない孤独感を抱きます。また、 相手に話してもらえなければ理解することもできません。上司側は部下に何でも話してもらえる関係性を作ることが重要です」
グループワーク❸ 「上司と部下の1on1」の映像を視聴し、意見交換する
「1on1(ワンオンワン)」とは、1対1の面談のこと。近年、コミュニケーションの活性化につなげるツールとして定期的に実施する企業が増えているそうです。映像では、上司が目標を達成できない部下に対して1on1を行い、できない理由や今後の対策を尋ねています。 各グループとも「上司は強い口調で一方的に話している。部下の発言を途中で遮る場面もあって、部下は叱責されているように感じたのではないか」「部下自身のキャリアアップのためにセミナーの受講を提案していたが、『自分が受けてよかったから君も受けるべき』という押し付けのように思えた」「上司と部下という社会的なランクの差が、上司の一方的な話し方や、部下の発言を途中で遮るといった言動に現れていた」など、上司の言動に疑問を呈する意見が目立ちます。一方で、「部下のことを考えてセミナーの受講を勧めている点は評価できる」「上司がいろいろ提案しても部下が受け入れないから、上司は『成長する気があるのか?』というメガネをかけたのではないか」と、上司側に立った意見も。 さらに、自分の経験を振り返って「学会発表を勧めるときは、相手の考えや家庭環境を聞くなどして、押し付けにならないよう気をつけている」「新人の先生のオーダー忘れが多く、何度注意してもなくならない。結局、指導を諦めてしまった」「やる気のない人をやる気にするのは難しい。最後は自分が引き取ってしまうことも」といった声も聞かれました。再び全員がメインルームに集まりグループワークの内容を共有した後、松井講師は「映像では上司が自分の言いたいことを一方的に伝え、部下の話が終わる前に話し始めたり、ため息をついたり、にらみつけたりしていましたね。これでは部下は自分の意見を上司に伝えることはできません」と、改めて問題点を指摘。また、口調や話す速度、声の高さなどの聴覚情報や、表情、ジェスチャー、視線といった視覚情報などの「非言語メッセージ」は非常にパワフルなので、ランクの高い人は非言語メッセージを発していないかどうか意識する必要がある、と注意を促します。
一方、ランクの低い人が発する非言語メッセージをキャッチすることも大切です。「映像には部下がうつむいたり、黙り込んでしまったりするシーンがありましたが、 上司は部下の非言語メッセージに気づいていませんでした。相手の反応を見て非言語メッセージをキャッチし、それに合わせた対応をすることで相手も話しやすくな り、相互理解が深まっていきます(図4)」と、松井講師は強調します。
「聞いてもらえないと感じる部下は、わかってもらえない疎外感や、助けてもらえない孤独感を抱きます。また、 相手に話してもらえなければ理解することもできません。上司側は部下に何でも話してもらえる関係性を作ることが重要です」