日本皮膚科学会キャリア支援

皮膚科学のこれから〜感謝のバトンを繋いで〜皮膚科学のこれから〜感謝のバトンを繋いで〜

お二方が孝える皮間科の未来、皮情科学会としてどのように進んでいくべきか?をそれぞれ大いに思うところを語られました。(可会進行:錦織千佳子)

島田前理事長から見た天谷雅行現理事長について

島田: 天谷先生にバトンタッチできて本当に良かったなと思っています。私は留学中、先日残念ながら亡くなったSteve Katz先生のもとで働いていましたが、天谷先生はKatz先生の弟子のJohn Stanley先生のもとで水疱症の研究をされていました。
天谷先生は当時、謎だった尋常性天疱瘡の抗原を、ついにデスモグレイン(Dsg)であることを明らかにされました。この時、ある学会で私のところに来て「ついにやりました!」と嬉しそうに教えてくれましたよ。
その後、アメリカの米国研究皮膚科学会議(Society for Investigative Dermatology:S I D)でWilliam Montagna Lectureship Awardを受賞されたっていうのが本当に印象的な出来事として覚えていますよ。 他にも日本免疫学会賞とか、それから米国医学アカデミー (National Academy of Medicine:NAM)の国際会員に選出されたりと、研究という分野で非常に大きな功績を残している方ですね。

錦織: NAMの国際会員は日本人で9名、皮膚科では天谷先生のみで非常に少ないですよね。

島田: 学会の運営は、かなり苦労されているとは思いますけどね。いろんなことをやらなきゃいけないし。ただ、私は研究も理事長職も両立できる人だと思うので、是非、日本皮膚科学会をリードしてもらいたいなと思っています。

天谷雅行現理事長が考える日本皮膚科学会理事長という職責について

錦織: 天谷先生が理事長に選任されてから、1年半以上経ちましたけれども、理事長という職は、大変でしょうか?

天谷: 本当に大変ですね。1万2000人の皮膚科学会の会員の皆様の声を聞きながら、そして、皮膚科領域を代表して運営していくっていうのは、いままでにない、未知のことがたくさんありました。 日本の中で皮膚科という領域がどのように変化していくのか、それをどう導いていくかというのは本当にチャレンジングで大変なことだと実感しています。私が理事長に選任された際にも申し上げたのが、 皮膚科領域を強くする、そして存在感を増すということです。皮膚科という領域は医学の中の大きな領域の1つであり、そして皮膚に現れる何らかの異常、 疾患を診療対象として、国民の健康に貢献するというのは大きな役割があると思います。
しかし、どうしても医学全体の中で見ると比較的軽い存在に見られがちになります。
けれども、実はそうではなくて、 皮膚科領域の重症疾患、例えばがん、自己免疫疾患、膠原病、稀少難治性疾患などをしっかりと診療するプロ集団がここにはいるわけです。しかもそれを外来だけではなく、入院治療を含めて診療を提供しているのが皮膚科です。
さらに、その診療領域を基礎、臨床研究により発展させるというミッションがあり、それを見事に推進しているすばらしい専門集団だと思います。

皮膚科領域における研究と日本研究皮膚科学会(JSID)の存在について

天谷: 皮膚科領域の独自性は、研究皮膚科学会の存在がありますね。皮膚科の場合は、日本皮膚科学会、日本研究皮膚科学会という独立に運営している団体があります。これが日本だけでなく、アメリカもヨーロッパも同じ形態となっています。
さらに、5年に1回、国際研究皮膚科学会開催という形で協力しています。しかも国際学会開催年には自国の学会を開催しません。
これほどの協力はどの医学分野、どの基礎分野を見ても例がなく、奇跡的なことです。皮膚科領域の方々が、診療と研究もやり、それぞれがかなり高いレベルにあって、1つの集団の中で起こっているっていうのは素晴らしいことだと思います。
だから、皮膚科領域の中で研究の存在を大切にし、今後も発展させていく必要があると思います。

島田: 私もJSIDの理事長を務めた後、JDAの理事長となりましたが、天谷先生も同じですね。JSIDは真に国際的な組織に成長し、アメリカ、ヨーロッパ と対等に交渉できるようになりました。これはあらゆる面で日本の地位向上に非常に役立っています。 その地位が低下しないよう天谷先生には頑張ってもらいたいと思っています。

錦織: いま、研究のお話が出ましたが、よく、研究っていうのは、Bench to bed というふうなことを言われます。最近、医療界は非常に進んでいて、以 前は研究と臨床の距離が少し遠かったと思います。1つの研究が臨床に実装されるまでに随分時間がかかったと思いますが、最近はその速度、スピードがすごく早まっていると感じています。先生方のお考えはございますか?

天谷: 仰るとおり、基礎医学のBenchと臨床医学のBedの間の距離は小さくなっています。今は、目の前の症例を深く解析する手段が出来てきましたので、例えば、シングルセル解析とかを駆使すると、目の前にある患者さんの臨床検体から、実に多くのことが理解できる時代となりました。さらに、臨床所見、あるいは検査データをもとに、多次元的に解析することにより、病態の本質まで迫れるような時代となっています。臨床を極めてやって行く皮膚科医にも、今後新たな展開が待っていると思います。

錦織: そうですね、距離が近くなったということで、ますます臨床に活かされるということかと思います。臨床の先生方にとっても決して研究というものが遠いものではなくて、臨床に即フィードバックし得るものだということは、皮膚科医として非常にありがたいことかなと考えています。

女性医師への支援と課題について

錦織千佳子

錦織: 女性医師の育成と働き方に関しては、医師の働き方改革とも密接に関連すると思います。
現在、女性医師の比率が非常に増えていますが、女性医師にとっては大学を卒業して、初期研修を終えて、専門性を高めていく時期に出産、育児といったライフイベントがちょうど重なるということが、非常に大きなハードルとなっていると感じています。
皮膚科学会は、女性医師支援を橋本公二先生が理事長であった頃からずいぶん力を入れてきたと思います。それが脈々と引き継がれて、様々な取り組みがされているとは思うんですけれども、これまでの取り組みと今後の方向性を少しお話しいただけますでしょうか?

島田: 橋本先生は、新入会員のうち女性が7割ぐらいになってしまうということを、当時から予測されていたんです。入局する女性医師が5年も続ければ長い方で、2〜3年で辞めていかれる女性医師の方があまりにも多い。山梨は例外ですが…だから、こういう人たちに何とか続けてもらおうというモチベーションがあって、橋本先生と塩原哲夫先生が中心となり取り組みが始まりました。
最初は、メンター&メンティーと言って、若い女医さん(メンティー)と、 ちょっと経験を積まれた方(メンター)に集まってもらい相談会を開催していました。メンターの中には錦織先生もおられたと思います。
その時、錦織先生は「自分の旦那がいいから続けられた」みたいなのろけをされていましたよ(笑)

錦織: そうでしたっけ(笑)

島田: 会が発展してきて、その後に更に男性、女性に関わらずしっかりとしたリーダーがいないといけないので、リーダーシップの研修もやろうと変わっていき、同時に女性医師を考える会からキャリア支援委員会に名称を変えて活動しています。女性医師問題ばかりに注目が集まりますが、実際には男性も続かない、といった様々な問題を抱えています。

錦織: そういう意味では、メンター&メンティーの会は、大学を超えて他の同じような環境の人に触れあって、話し合いができるいい機会ですね。最近では医局長レベルの方も参加していますし、各大学の取り組みの共有だけでなく、大変さを共感できるというところが支えになっているかもしれないですね。

島田: ただ、様々な取り組みを行ってきましたが、 問題が本当に解決しているかどうかは検証しないといけません。
私見ですが、あまり状況は改善されていないんじゃないかなと思います。これは、皮膚科に限らず全ての領域で起こっている問題ですので、オールジャパン体制で女性を支援しなければいけないんですが、なかなか改善しない。

錦織: よくガラスの天井とか言われますよね。女性医師として入って来る人は多くても、だんだん助手、助教、講師になって、上に行く人が少ないその中には能力はあっても、上には行きたくないっていう人が多いっていう現象が日本では多いと思うんですよ。

島田: それは男性もそうなんですよ。それに、海外への留学生も本当に数えるほどしかいません。

錦織: 現実と理想とのギャップと申しますか、これ から進むべき方向性、それぞれの生活も大事だし、育児とかも大事だし、でも、皮膚科医として学ぶべきことは、どんどん増えています。そのあたりをどういう風にバランスをとるかということが重要だと考えます。
天谷先生はどのようにみられていますか?

天谷: 女性医師の育成、働き方ですけれども、いま日本皮膚科学会の会員の半数は女性が占めています。しかも、ここ数年の新入会員は橋本先生の予測どおり70%が女性です。ということは、皮膚科学会での女性医師への対応が、日本医学会のロールモデルになりうると考えています。
ですので、島田先生が仰ったように皮膚科単独の問題ではなくて、医学会全体として解決していくという構図の中で考えなければいけないと思っています。

錦織: なるほど、日本における働く女性を支える環境というのはいかがでしょうか?

天谷: 他の国の女性医師の方とかを比べると、日本は働く女性を支える社会構造が脆弱です。待機児童の問題とか、いろんな問題がありますが、結局女性が出産して子どもを持ったときの支援を結局家族に頼らざるを得ない状況があります。いわば家内工業になっています。
これを社会がきちんと女性に働いてもらえるような環境を整備しなければいけない。
医師が足りないことの問題は、女性医師が離職せず、医師として働き続けることを改善することが 一番の解決策だと思いますね。

錦織: 彼女たちはすでにトレーニングを終了している即戦力ですからね。

天谷: 国際的に見て日本は働く女性の支援が未開発になっていると思います。そういうことをやっぱり訴えつつ、考えていかないといけないかなと思います。私はメンター&メンティーの会で3つのことを申し上げています。
1つ目は、皆さんが選んだ職業は、Lifetime Learner であり、一生かけて勉強できるすばらしい職業であること、何歳になっても勉強し続けて、その学んだことを診療で社会に返せるという特殊な手段を持っています。
2つ目は、ライフイベントで様々なことがあって、フルタイムで働けないときも、できるだけ働かない時期を最小限にして、少しでもいいから続けること。
3つ目は、やると決めたことに対しては、120%を目指すこと。どうせやらなきゃいけないことなら「嫌だな、嫌だな」と思ってやるのではなく、やらなきゃいけないことを受け止めて120%を目指してやること。120% を目指していると、自分だけでなく周りの人の状況が変わってきて、絶対できないと思われたこともできてしまうことがあります。
今置かれている環境の中で、目の前にあることを、丁寧にしっかりやることを継続して行くことで、いろんなチャンスが生まれてくると思っています。

次のページ