日本皮膚科学会キャリア支援

皮膚科学のこれから〜感謝のバトンを繋いで〜皮膚科学のこれから〜感謝のバトンを繋いで〜

rarediseaseとcommon diseaseについて

天谷雅行

錦織: 昨今、高価な薬剤が出てきて、医療費高騰のことが喫緊の課題となっています。けれどもrare disease への手当から、非常に重篤な疾患への手当っていうのは保険でどんどん救済するというふうに手厚くなる一方で、common diseaseに関してはOTCへの 切り替えや自費診療になると言われています。皮膚科医は、common diseaseもrare diseaseもどちらの疾患にも接する機会は多いわけですけれども、そもそも、それほどクリアにcommon diseaseとrare diseaseに分けられるかっていうこともあるんですが、進むべき方向性などのお考えがありましたら教えてください。

天谷: 天谷:保険の問題の観点からrarediseaseとcommon diseaseですが、common diseaseを医療保険で守る、それを堅持する必要があると考えています。
1回の治療で億を超えるようなものも出てきて、全体の医療費が高騰している中で、医療費を抑制するために様々な取り組みがなされており、common diseaseを保健医療から外すような方向の議論もされています。しかし、common diseaseの中にrare diseaseが紛れていることとそのcommon diseaseを診ることの大切さっていうのは、我々が日常的に感じていることです。
また、医療機関で働く医師としては、その医療機関の収支という点も考えて診療するという立場にあるので、薬局で購入できる安価な一般薬が存在しても、収入の面から必ずしも必要のない、より高い治療法を選択する土壌を生み出してしまいかねません。common diseaseをより適切に安い医療費で専門集団がしっかりと診療していくことが重要ではないかなと思います。
また、あまりにも高い薬に関して、もちろん、見捨てるということではないですが、大局的な見地から、保険のかたちをどうすべも含めて考えていかなければならないと思います。

島田: 必要な診療を保険から外すようなことがあってはならないと思いますね。自分も機会あるごとに強く訴えていますが、国の方でもぜひとも適切な財政運営をしていただき、必要な保険診療は守るという態度をとっていただきたいと思います。

専門医制度について

錦織: 今年度初めに、シーリングの問題が出まして、各科に合わせたシーリングが設定されました。 皮膚科領域では当初は11都道府県が対象でしたが、天谷理事長、佐山浩二先生を委員長とするシーリン グ対策ワーキンググループの活動やあらゆる方向からの意見や要望などもあって、大幅にシーリングは見直されたわけですけれども、医師受給分科会における皮膚科は過剰というコメントも少し尾を引いた感もあって、各地域の専攻医応募は少し低迷しているところも多いと聞いております。お二方から見た現在の専門医制度、皮膚科医の現状、そして今後、どのようにお考えでしょうか?

天谷: まず、皮膚科医が過剰ということに対してですけれども、1番の問題は、専門医を育てる医育機関及び地域の基幹病院、つまり勤務医の環境において皮膚科医は不足しており、危機的な状況にあるという現状です。
この基幹病院と医育機関における状況を守らないと、重症疾患に対する対応もできなくなり、質の高い専門医を次世代に向けて育てるという機能も大打撃を受けてしまいます。皮膚科領域におけるこの機能を落とすことなく、これからも進んでいくこと が大切です。
皮膚科医が余っているという感覚は、医育機関、基幹病院においては全くそういう感覚はなくて、医療界全体、社会に正しく認識してもらう必要があります。皮膚科領域は、これから新しい治療法が次々に開発され、病態解明がされていない多くの疾患が解明され、超高齢化社会において対象疾患も増加し、一 生かけて学び続けることができるLifetime Learnerを 実践できるすばらしい職業です。
皮膚科を専門として選択することを考える医学生、初期研修医にも正しく理解していただき、正しい選択をしていただけるよう情報発信をしていく必要があると思います。

錦織: 全く仰るとおりですね。大学とかの中では教育、研究、すべてのことをやっていますし、基幹病 院でもやはりそこで教育している先生もたくさんおられて、下の先生の指導をするという形になっています。 そういうシステムを考えると、決していまの状況が過剰とは思えないわけですよね。この状態だと勤務医が本当に疲弊してしまうのかなというところは、気になっています。

天谷: もう1つの問題が、厚労省が提示している必要医師数は、診療エフォートのみの積み上げで計算しているという事実です。
医育機関も基幹病院も診療している以外に、次世代を担う若手を「教育」し、そし てよりよい医療に進化させるために「研究」も行っています。エフォートとして、「教育」「研究」のエフォー トを全くカウントせずに必要医師数が計算されていることが、現場で感じる感覚との大きなギャップを生じているもう1つの要因だと思います。
適正な必要医師数を考える上で、医師が行っている研究エフォート及び教育エフォートというものも実態に応じて積算し、必要医師数を算出してもらうことが必要です。 本件に関しては、会員として日本学術会議にも働きかけ、緊急提言として発信していただく準備を進めています。

島田: 日本専門医機構については、語りつくそうと思うと時間がなくなりますが(笑)もともと日本母門医機構は学会を社員としていませんでした。そのため、アカデミアの部分(大学や研究)が専門医制度から取り去られる危険がありました。
そこで、私は複数の学会と協調しながら厳しい交渉を続けた結果、専門医機権も学会を社員とするという方針に変更しました。日本は科学技術立国ですし、アカデミアを中心に据えることが重要だと思います。
また、適切な医療体制の維持と専門医の質保証のためにも、各診療科と各地域に必要な人具がいくように検討すべきだと考えます。

錦織: ありがとうございます。また、理事長からも様々な働きかけをよろしくお願い致します。

Alについて

錦織: いま話題のAIの話を伺いたいなと思います。人工知能の発展は、非常に目覚ましくて脳のMRI画像などもディーブラーニングで分析して医療用の画像解析ソプトで医療機器として国の承認を受けるというところまで来ました。皮膚科も比較的面像で診断というところのアクセスが近いようにも見えるんですけれども、本当にそうなのか?という疑問があります。
画像だけでは触診はできないわけですから、個人的にはちょっと風味があるところですがそのあたりのATの発展について、皮膚科学会でも無関心ではいられないと思いますが、どうでしょうか?

島田眞路

島田: 私が理事長時代にAIとか Telemedicineとか新しい診断手法について理事会で話題になりました。
仰るように無関心ではいられない、ということで当時、副理事長だった天谷先生に相談して藤本学先生(大阪大学教授)を中心にAIのワーキンググループを立ち上げました。

天谷: AIに関して私が一番恐れているのは、皮膚科領域として、AIに反対する立場をとった場合、 今度は海外で開発されたものが直接に医療界に入ってきてしまう危険性があります。そうすると、日本の皮膚科医が全く関与しないかたちで医療が成立しかねないということに関して、強い懸念を持っています。
AIの波は決して医療界だけではなくて、日常生活の中にも入ってくる大きな波ですので、専門領域としてもAIの限界を知りながら、AIをどう発展させていくかということに注力すべきだと思っています。島田先生が設立したAIのワーキンググループでは、日本医療研究開発機構(Japan Agency for MedicalResearch and Development: A ME D)の研究事業に採択され、その事業として研究を実施しています。
そこでは、15の主要機関で1年以上動いていますけれど、すでに20万近くの画像データが集まっています。また、国立情報学研究所(NationalInstitute of Informatics: N I I)をはじめ、皮膚科以外の領域とのネットワークも構築しています。
この試みの大きな成果は、今まで大学を超えたネットワークはなかなか出来なかったのが、短期間の間にAIというキーワードのもと、スピーディーにネットワークが構築できたことだと思いま す。AIの進歩スピードは本当に速いので、今後も出口戦略を始め、いろんな問題も出ていますけれども、皮膚科学会及び皮膚科専門医が中心となって、 決して、AIにコントロールされるのではなくて、 AIの良い面を使って、より高い皮膚科診療に発展させ、確立していくということが、必要であると思います。

最後に

錦織: それでは、最後になりましたけれども、1年半以上理事長を続けられて、この期間を振り返って、 今の思いの丈を語っていただければと思います。

天谷: 理事長という職に就いてからでないとわからないことは本当にたくさんありました。皮膚科学会が創立してから120年。
それぞれの時代でそれぞれの先人たちが数々の困難を克服してきて、その努力の蓄積があって、いまの皮膚科学会があると思います。だから、私たちがこうしていられるのは、 その、先人たちの多くの努力と英知の蓄積の上に立っているということにまず感謝したいと思います。
その上で、特にこの3期6年を務められました島田前理事長は事務局機能の強化や公益法人移行に伴う定款の作成、公益性を担保する上で必要な理事の任期などを決めていきました。
また、事務局運営において最も大きかったのは、皮膚科学会内にコンベンション機能を獲得したことです。これを実現できている学会は、ほとんどないと思います。財務的にも大きなプラス要因となっているのみならず、より学術大会の運営、プログラムの発展にも大きく貢献したと思います。学会を開催する際に、コンベンション会社に依頼すると、そのノウハウが次の会頭に伝わりにくい、というジレンマがありました。 しかし、学会内部にコンベンション機能を持つことに よって、そのノウハウがすべて蓄積され、継続的な運営が実現できるようになったことは、本当に大きなことだと思います。
そして、島田先生がかなりの エフォートを捧げた専門医制度ですね。
これは、皮膚科という立場を超えて、日本の医療がどうあるべきかという課題にも踏み込んで、さまざまな意見を発信し、そして行動に移し、戦うリーダーという姿勢を見せていただきました。本当に数々の大きな課題が克服され、日本皮膚科学会の発展に大きく貢献 されたと思います。心から感謝を申し上げます。

錦織: 島田先生が引いた路線を引き継いで、天谷先生としてはさらに発展されていこうということですね。

島田: ぜひこれからも頑張ってほしいと思います。

錦織: これからも天谷先生のリーダーシップに期待して、皮膚科学会を引っ張っていただければと思います。
どうも本日はありがとうございました。

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