日本皮膚科学会キャリア支援

美容皮膚科について考える
~美容皮膚科・レーザー指導専門医ってなんだ?

>青山 裕美

聞き手青山 裕美

キャリア支援委員会委員長

皮膚科医が目指す専門領域の一つである、美容皮膚科・レーザー治療。 その指導専門医とは?
>船坂 陽子

船坂 陽子

美容皮膚科・レーザー指導専門医委員会委員長
日本医科大学医学部皮膚科教授

美容皮膚科・レーザー指導専門医は皮膚の状態をきちんと診断して、皮膚の病態生理を把握して、ノンサージカルにも治療ができるということを非常に重要視しています
皮膚科医が目指す専門領域の一つである、美容皮膚科・レーザー治療。その指導専門医とは? 美容皮膚科・レーザー治療領域の歴史、現状、指導専門医について教えて下さい。

船坂: まずは、日本皮膚科学会の美容皮膚科・ レーザー指導専門医がどのような資格かということ、そして設立の目的と現状を今回の座談会で話し合っていきたいと思っています。まず、設立の目的ですが、当初古江先生、古川先生、そして、古川先生と一緒にやっておられた山本有紀先生が参加されておられましたので、山本先生から簡単にご説明いただけますでしょうか?

美容皮膚科・レーザー指導専門医のなりたち

山本: 1980から1990年代に、QOLの向上目的とした美容治療の社会進出は拡大しました。特に、ざ瘡や若返り治療として脚光を浴びていた"ケミカルピーリング"がビジネスとして進出したため、熱傷や金銭的なトラブルも含めたクレームが国民生活センターの全国消費生活情報ネットワーク・システム(PIO-NET)に多く寄せられました。ケミカルピーリングが医事第 59 号より、業として行われれば医業に 該当すると明記されていることより、本行為を行う医師、当該関係者の教育および国民への周知が責務と判断した日本皮膚科学会が立ち上がり、ケミカル ピーリングに関する治療ガイドラインを作成することになりました。美容分野は皮膚の基礎を熟知した皮膚科医が率先して発展させるべき分野であることを、当時、九州大学の古江増隆教授や和歌山県立医科大学の古川福実教授が中心になり統括された新しい分野だと記憶しております。

船坂:付け加えますと、ケミカルピーリング以外にも、基本的なシミ取りのためのQスイッチレー ザーや血管腫系のレーザーもやはり修練していただこうということに決まりました。実地をやっている人に研修を積んで取得してもらえるように資格をつくることになったわけですね。そういう経緯で、 2007年に日本皮膚科学会において皮膚悪性腫瘍指導 専門医と同時に発足しました。受験をするためには、 実地をやっていただいた上で、なおかつ専門の学会で研修を積み、日本皮膚科学会で主催している美容 皮膚科・レーザー指導専門医の研修会に参加していただくことを必須といたしました。研修会は最近でも、約30名〜60名の参加者があります。興味を持っていらっしゃる方は是非とも参加していただき、最新の正しい情報を得て、資格を取るようにしていただけたらなと思っています。

青山: 美容皮膚科・レーザー指導専門医の資格申請にはどのような要件がありますか?

秋田: 図 1-1に美容皮膚科・レーザー指導専門医新規申請のための修練指針があります。最低限必要になってくるという項目として、先ほど山本先生もお話しあったようにケミカルピーリングができること。
そして、レーザー治療の中では血管病変や色素性病変のレーザー治療ができること、などがあります。美容皮膚科で最大の問題になることとして、良性か悪性かを判断できることが求められます。それとともにまずは、最低限、専門医を持っていることも必要となります。
詳しい条件については、図 1-2 をご確認ください。

青山: 皮膚科専門医資格を保有していることが求められるのですね?

秋田: そうです。上級専門医となった理由は、やはり治療だけではなく、診断をしっかりした上での治療学ということを求められると思っています。

青山: 研修項目にはケミカルピーリングと血管病変のレーザー、色素性病変のレーザー、その他にボトックスやいわゆるプチ整形みたいなものも含まれています。プチ整形はどのような位置付けになっていますか?

秋田: それはサブ項目としてあります。皮膚科が美容皮膚科として修練できる項目としては、美容外科のように基本的に手術をするといったことではなく、注入療法までは美容皮膚科領域の範囲として扱っています。

須賀: 私が所属する日本美容皮膚科学会の保険委員会では「総合保障制度でカバーすべき美容皮膚科 の内容」として、図 2にあるような 12 項目をあげており、その中にはボトックスやフィラーなどの手技も含まれています。

青山: なるほど。美容皮膚科・レーザー指導専門 医の資格を取ろうと思ったら、ここにあげている 12 項目をマスターすればいいということですね。

須賀: はい。ただ、すべてが必須ではありません。 研修する施設によっては機器がなかったり、指導者がいないなどで 12 項目の修練が難しい場合もあります。

青山: すべて修練していなくてもよいということ ですか?

須賀: そうですね。この 12 項目で絶対に必要なのは、自由診療ではケミカルピーリングや美白剤療法、 レーザーを使ったシミ取り治療などがあげられます。保険診療では色素レーザー、Qスイッチレーザーの取り扱いですね。あと、修練指針にはありませんが、保険診療と自費診療の使い分けがきちんと確実にできることも大切ということで、指導専門医試験にも出題されています。

秋田: これまでは、メスを使うか使わないかで大きく2つに分けていたと思うのですが、ところが最近、メスを使わない形成外科医またスレッドリフトのような治療をなさるような皮膚科の先生も増えており、オーバーラップが以前よりだいぶ大きくなってきています。

須賀: このため美容医療の総合保障制度では、美容外科と美容皮膚科は分けずに、美容医療として、1つとして取り扱うようになりました。

船坂: 形成外科の中にできた日本美容外科学会の美容外科専門医は、手術が必須なんですね。美容皮膚科は、ケミカルピーリングが必須になっています。 要するに皮膚の状態をきちんと診断して、皮膚の病態生理を知って、ノンサージカルにも治療ができるということを非常に重要視しています。

青山: それは、重要なポイントですね。形成外科の先生は、やはり、皮膚疾患の診断は苦手と考えておられ、診断は皮膚科専門医にコンサルテーションするということは日常的にも行われています。美容皮膚科・レーザー指導専門医は、皮膚科専門医を取らないとなれない2階建ての構造になっていますから、 十分に研修されてスキルを活かしていくための指導専門医という位置付けであるということを会員の方によく理解していただく必要がありますね。日本皮膚科学会としてはケミカルピーリングや、色素病変、 血管病変のレーザー治療は皮膚科が主導していくという意気込みでシステムを構築しているのですね。

船坂: 最初に発足したのが2007年なのですが、その後美容皮膚科領域はイオン導入や多汗症の治療などが入り、少しずつ変わっております。
ざ瘡のガイドラインもできましたし、これらガイドラインにも精通していただき、美容皮膚科的に治療するにはどうすればよいのかということで、試験ではそういった内容を出題するようにさせていただいております。要は、EBMに則った治療ということです。 そして皮膚科は、学会全体として研究にもとても力を入れておりますので、美容皮膚科に関しましても、 臨床研究及び基礎研究の論文も種々の分野で出されております。

>須賀 康

須賀 康

美容皮膚科・レーザー指導専門医委員会副委員長
順天堂大学医学部附属浦安病院皮膚科教授

たとえcommon diseaseの治療であっても、指導専門医の資格を持っている皮膚科医の方がすみやかに上手な 治療ができるのではないでしょ うか
>小林 美和

小林 美和

美容皮膚科・レーザー指導専門医委員会委員
こばやし皮膚科クリニック副院長

美容診療では安全がまず第一で、結果を出さないといけない。その為にも指導専門医の知識は必要

美容皮膚科・レーザー指導専門の受験者減少に対して

青山: 現在、指導専門医の受験者が減少していると聞きました。それはなぜでしょうか?

小林: 先日、若い女性の先生方とお話しをした時に、美容分野に関係する論文を書く機会があまりない為に、業績として論文が足りないこと、そして、研修中の施設にレーザーが揃っていないことが受験できない理由として挙げられておりました。レーザー治療症例を最近5年間では揃いません、という声が多かったです。現在の規定では条件を満たさないけれど、実は、指導専門医を取れそうな先生はかなりいるのではないかと思います。

秋田: レーザー医学会は修練施設を大学病院だけではなくて、開業医の先生の施設でもレーザー治療施設として認定しています。

青山: 開業医で研修しても、単位として認められるんですか?

秋田: 実際にそうやって資格を取っていらっしゃる方もこれまでいっぱいいらっしゃると思います。

青山: レーザー治療施設の開業医が資格を持っている場合にのみ認められるのですか?

秋田: 資格は関係ないです。ご自身がやっていればいいので。例えばOBの先生のところにある一定の期間行って、治療させていただいて、経過を見てそれを記載して認めてます。

青山: そうなんですね!知りませんでした。

須賀: 専門医をすでに取得済で、最近5年間で50症例以上の経験数あれば受験資格を満たします。

青山: 論文がまだ書けていない人に、対策を教えて下さい。

船坂: 受験者はすでに専門医を取っていらっしゃいますから、症例報告でもいいですから、頑張って 書いていただければと思います。
例えば、日本美容皮膚科学会に、Aesthethic Dermatology という雑誌があるので、頑張って一度トライしていただきたいです。査読者からコメントがありますので、それをもとにさらに勉強して考察をしっかり書いてもらって、何より諦めずに、やっていっていただいたらなとと思っています。あと、日本皮膚外科学会もございますよね。

須賀: 日本レーザー治療学会や日本レーザー医学会の学会誌でも同様に単位として認定されます。

秋田: 私は日本臨床皮膚外科学会の理事長やって いるんですけれども、そこでも Skin Surgery という雑誌がありますので、そこで症例報告でも出していただいて、アクセプトされればカウントされますので。

小林: 総説でも良かったですよね。

秋田: あと、依頼原稿もOKです。
まず、1 本を自分のファーストネームで書いていただいてというかたちになると思います。

青山: セカンドネームでも良いですか?

秋田: はい。それ以降であれば、セカンドネームでも大丈夫です。

青山: じゃあ、最低ファーストを1本。まとめると、症例報告でも、総説でも、依頼原稿でも良いので、 セカンドも含めて3本を頑張って書いて欲しいということですね。

小林: 付け加えると 100%美容じゃなくても、美容的な要素が含まれていれば実績として考慮される場合もあります。

船坂: ざ瘡も美容皮膚科の領域ですので、ざ瘡に関連する論文は全てOKですね。

小林: 白斑、脱毛症、カモフラージュメイク、香粧品関係などでも美容的な要素が含まれていれば審議される可能性が高いです。