日本皮膚科学会キャリア支援

美容皮膚科について考える
~美容皮膚科・レーザー指導専門医ってなんだ?

>秋田 浩孝

秋田 浩孝

美容皮膚科・レーザー指導専門医委員会委員
藤田医科大学ばんたね病院皮膚科准教授

本来、美容皮膚科というものは、診断 学がきちんとできることが重要だと思ってます
>山本 有紀

山本 有紀

美容皮膚科・レーザー指導専門医委員会委員
和歌山県立医科大学医学部皮膚科准教授

すべての皮膚疾患においては、美容皮膚科学が役に立つことがあり、+αの治療を提示できる

開業するに向けての心得

青山: 病院勤務を長くされていて、美容皮膚科の経験がない。
今度開業するから美容もやろうとしている先生方にアドバイスをお願いします。

山本: 美容治療を行われていなかった先生が開業されるときに"購入するならどのレーザーが一番いいですか?"というふうに、聞かれることが結構あります。結局、その先生方が重視されていることは、どのレーザーが一番使いやすくてトラブルもなくて、患者さんの満足度が高いか、ということになりますが、 レーザーは基礎的な知識なくては使いこなせないと思っています。レーザーの機序や皮膚の正しい解剖・ 生理知識を持つことで、予期せぬトラブルが生じたときも対応でき、さらに、より上達した治療を提供していくという意欲をもち続けていくためにも、多くの正しい知識を修得していただきたいです。

小林: 開業してすべての機器や手技を使うわけではないと思います。レーザー治療を行うにしても、 自信を持って使えるレーザーを選んで取り入れればいいと思いますし、レーザーを使わない美容治療をやっていく、という選択肢もあり得ます。

青山: なるほど。

小林: ただし、広く正しい知識を持っておかないと、自分で独りよがりの治療、美容治療をすること になってしまいます。患者さんから美容的な相談を受けた時に、自分のところではこれができるけど、 これはできない、とか、こういうレーザーを持っている先生のところで相談してみてはどうか、という情報を提供することは患者さんの利益になります。 そういう意味で、自分が行わない手技についてもある程度は知っておくことがとても大事だと思います。 さらに、美容診療では安全がまず第一で、結果を出さないといけないと思っています。そんな自信と知識をつけるためには、やはり指導専門医を取るための勉強と研修が必要ですし、実際に役立っていると思います。

青山: では、開業して美容に手をだすならば、しっかりと研修をしておかないと危ないと?!

小林: はい。もっと言うと、皮膚科専門医でも美容の知識が全くないと、自由診療で改善できるような状態の患者さんに情報提供できないですよね。
指導専門医の資格取得を目指すか否かは別にして、美容皮膚科についても勉強しておくことは一般皮膚科 診療に役立つと思います。

船坂: 私は、2020 年の 9 月 12 日、13 日に日本美容皮膚科学会学術大会を新宿の京王プラザホテルで開催させていただくのですが、プログラムに、これからやってみようかなという先生を対象とし、レー ザーって難しそうだけれど も、どういうことに気を付けてやればいいのかなどの入門編の教育講演を計画しています。同時に、ずっと美容皮膚科をやっていて、研究レベルで、どういうふうにしたらよりよいのか、最先端の情報交換を希望される先生方を対象にした教育講演も分けて組んでいます。

青山: 初心者と、エキスパート向けの講演が分かれているのですね!

船坂: 日本皮膚科 学会総会もどういう 人向けかと区別して いますように、初めての人もこういう学会に参加していただ いて、知識を得て、 安全な美容皮膚科学に取り込んでいただきたいと思ってます。小林先生が仰ったように、自分がメラノーマの治療ができなくても、これはメラノーマだからどこそこに行きなさいと言える必要があると思います。あわせてこういったシミはこのようにしたら治せるんだということも一般の皮膚科専門医よりも知っていただきたいです。そのように研修をやっていただけたらなと期待しています。

危ない美容皮膚科を防ぐためにも各大学に美容皮膚科を!

青山: 海外では、美容皮膚科医が非常に増えています。日本では,美容皮膚科医は増え,指導医は増えない。それについて皆さんはどのようにお考えでしょうか?

須賀: 本当に興味を持って美容の分野に参入して下さる先生が増えるのであれば非常に嬉しいことですが、通常のクリニックでやるよりも効率よくお金儲けができるとか、楽な診療でやっていけるというような面ばっかりを追い求めてしまう先生がいらっしゃるのも事実で、後期研修も終わらないうちにグループクリニックなどに移籍して働いている若手医師たちもいるようです。確かに実戦は多く経験できるメリットがあるのかもしれませんが、診断や治療に対しての修練が不十分なため患者さんとの間でトラブルも多く発生しているようです。

青山: 一方で、そういうクリニックでは最先端の機械を経験できて、良い研修になるということも聞くのですが?

須賀: 十分な修練と知識を持っている指導医のもとで、若手医師たちがそこで最先端の機械を使った診療をしているんでしたら、日本の美容医療のレベルアップになると思うのですが、そこまで頑張って下さる先生がどの位いらっしゃるかということですね。

青山: 診断を他人に任せて、施術しているとしたら危険ですね・・・。

秋田: 本来、美容というのは、専門医を取る過程においても診断学としてしっかりと入っているのが 望ましいのかなというのを私はいつも思っています。そこから治療として、少し興味があるのでしっかりとやりたいという先生方に対して、ケミカルピーリングだったり、レーザーだったり、皮膚科でできる分野を少しずつ進めていくというほうが、本来の在り方かなとは思ってます。そこがないから、 チェーン店とか行くと、あまり深いことはやらなくていいので、言われたようにやりましょうとか、診断ができないから診断だけはやってください、その後は治療をうちでやりますっていう話が出てしまうことがゼロではないのかなというふうに思ってしま います。

青山: そうなると、皮膚科の専門医育成の段階でも美容に関する基礎的な知識ぐらいはあった方が良いと。

秋田: 今後のことをさらに考えると、という意味なんですけれども。日本はやはり基礎育成として、 早い時期から特に興味のある分野というのは、少しずつおろそかにせずに入れていくっていうのも大事かなとは思っています。

青山: そうなると、各大学に美容指導専門医の先生がいたら指導ができますね。

秋田: そうですね。それも底上げになる1つの要因かなと思っていますね。

青山: 美容皮膚科・レーザー指導専門医を取得するとどんなメリットがありますか?

須賀: 通常の保険診療の中でも、ニキビ、多汗症、肝斑の患者さんの治療やスキンケア、脂漏性角化症など common disease の治療であっても、おそらく美容皮膚科・レーザーの指導専門医を持っていらっしゃる先生の方が、持っていらっしゃらない先生に比べて上手に治療ができているんじゃないかなと考えます。

船坂: あと、脱毛症もですね。

須賀: 指導専門医試験の合格のためには、日本皮膚科学会のガイドラインについても精通している必要があります。私もきっとそうだと信じています。

秋田: 追加するとしたらスキンケアですね。こういうのものを買いなさいとは言わなくても良いと思うのですが、化粧とかスキンケアの仕方とかは、勉強することになると思うので、その点は、プラスになっていくんじゃないですかね。

船坂: そうですね、日焼け止めクリーム1つ取っても何に気を付けなきゃいけないかとかありますからね。いま、飲むサンスクリーンがいいっていうけれど、SPFが一体どの程度なのかというのをぜひ皆さん知って、活用していく必要がありますよね。

須賀: それらは保湿剤や基剤の使い方などの皮膚科の軟膏療法を熟知するためのよい機会になるかもしれませんね。

秋田: 男性の先生にも勉強してほしい分野だと思っています。

山本: アトピー性皮膚炎にせよ、乾癬にせよ、すべての皮膚疾患においては、美容皮膚科学って役に立つことがあり、+αの治療を提示できるんですよね。

船坂: そうですね。

青山: 具体的にはどのようなスキームで研修をするのがお勧めですか?

船坂: 今度の第 119 回日本皮膚科学会総会の日曜日に美容皮膚科・レーザー指導専門医と皮膚悪性腫 瘍指導専門医と合同で、資格を取得に際して、必要な研修制度及び必要な手技や知識について説明する企画がございます。今後取ってみようかなと思われる 先生は是非聴講していただきたいと思います。やはり聞いていただくことで指針がとても明確になると思います。美容皮膚科は、レーザーの学会でもいいんですけど、一応美容皮膚科学会が母体となっていますので、そういった学会で、初心者向けや上級者向けの講演を聞いていただいて、知識をアップデートしていただけたらなと思います。我が国における美容皮膚科のレベルが全体として上がるんじゃないかと。 そのためには、敷居をあまり高く感じずに全国の大学や病院、そしてご開業の先生が資格を取るようにしていっていただければ良いなと思っています。

+αのQOLを上げるための治療として

小林: 美容皮膚科は、一般の皮膚科の診療とは全く別と思われているかもしれません。

青山: 大学病院では自費診療は基本的にはできないので、美容はできないと考えています。

小林: 例えばアトピー性皮膚炎の方が美容診療を希望される場合もあります。皮膚炎の調子はいいけど、色素沈着やごわごわ感が気になるという相談です。治療である程度皮膚炎が落ちついてから、QOL を上げるためのケアとしてケミカルピーリングやイオン導入を行うケースがあります。また、術後の植皮・採皮部や、放射線治療後の色素沈着を改善したいと美容治療の相談を受けることもあります。

青山: それは自費でやってらっしゃるんですか?

小林: スキンケア指導や内服など保険診療の範囲内で対応できる場合は保険ですが、より積極的に改善し たいと美容治療を希望された場合は自費で行います。

青山: えっ、皮膚科医ならではの視点で、保険診療と自費診療を適宜提案していらっしゃる ?

小林: そうですね。保険診療で治療できるものであれば、美容治療はあくまでオプションです。

青山: 美容皮膚科のドアから入ると、最初から自費診療しか選択できないっていう可能性が高い。皮 膚科のドアから入れば、まず保険診療か自費診療か相談するルートを提供できるということですね?

小林: そうですね。皮膚科医ならではの治療と美容のすき間を埋めることは、開業医の方がフットワーク軽くできると思います。

山本: 大学や機関病院では、そういう提案まではちょっとやりにくいですね。

小林: 自分も大学では、そこまでできませんでした。

青山: なるほど。美容の自費診療と病院皮膚科の保険診療の間を埋める診療を皮膚科の開業医さんが担当できるかもと?

小林: 皮膚科診療の幅を広げる意味でもおすすめです。

青山: 今後、病院勤務から開業する先生が美容皮膚科のツールを揃えた段階、もしくは揃える前に美容皮膚科学会で勉強する。そして美容皮膚科学を皮膚科医のキャリアの一つとして追求していく。それは大きな社会貢献になりますね。今日の対談に参加 して,日本皮膚科学会が美容皮膚科・レーザー治療 をリードして、その指導専門医を認定する必要性を理解することができました。 今日は長時間ありがとうございました。